すべては映画好きのために――“名画座界のマザーテレサ”のむみちの情念は著名人の魂も叩いた

のむみち (C)週刊実話Web
村瀬秀信氏による人気連載「死ぬ前までにやっておくべきこと」。今回は“名画座界のマザーテレサ”のむみち氏のインタビュー(下)をお届けする。

『名画座かんぺ』が関係者や界隈で知られた存在に

「『名画座かんぺ』、いつも使っています。あれすごいですよね。1人で作ってるんですか?」

古書往来座で店番をしていると、映画ファンにそんなことを聞かれることがある。

自分の生活の中で自然に続けてきた『名画座かんぺ』は、いつの間にか、名画座関係者や界隈で「知られた存在」になっていた。

「2012年に完成した1号目のかんぺを持って各名画座に『こういうのを作りました。置かせてください』ってお願いしたときの反応は…戸惑い?(笑)『ありがたいけど、本当にやるの?』という感じでした。でも、創刊してみると、思ったよりもツイッター(現X)で拡散されて。

あとは創刊翌月の2号目のときに宇多丸さんのラジオが名画座特集をやっていて、そこで『今、名画座にはこんなものが登場したんです。これすごいよ』ってゲストの方が紹介してくださったんです。そういう幸運もあって、いいスタートが切れたんですよね」

のむみちの思い付きから始まった『名画座かんぺ』は、名画座ファンにとってはまさに痒い所に手が届く偉大な発明品だった。

元々が狭い世界の話である。

かんぺに手書きされた、老眼殺しの極小文字一つ一つに込められた情念は、「クロサワを見ずは人に非ず」でお馴染みの瀬戸雄史代表による版画の表紙の力も相まって音楽家の小西康陽氏、グラフィックデザイナーの太田和彦氏ら著名人を含む、多くの名画座ファンの魂を叩いた。

創刊から半年ほど経ったある日のこと。往来座に若い女性2人組が訪ねてくる。

「自分たちに何かできることはないでしょうか」

いきなりそんなことを切り出す彼女らの話を聞くと、前年に休刊した『ぴあ』(映画・イベントなどの情報誌)の出身。

『名画座かんぺ』を見て居ても立ってもいられなくなったようで、のむみちに戦力のオファーに来たのだ。