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映画『女たち』主演女優・篠原ゆき子“撮影秘話”インタビュー

Lia Koltyrina / shutterstock

――篠原さんは映画『女たち』の主演を務めただけでなく、制作段階から深く携わったと伺いました。

篠原「もともとプロデューサーの奥山和由さんが『篠原ゆき子を主演とした映画を撮ろう』とおっしゃってくださったんです。最初は単なる社交辞令かと思っていたんですけど、気付いたらありがたいことに、どんどん話が進んでいまして。奥山プロデューサーも私もご縁のあった、以前からお世話になっている内田伸輝さんに監督と脚本をお願いすることになりました。その後もファミレスで何度も打ち合わせをして、内容を細かく詰めていきました」

――ファミレスでは、どんな話し合いを?

篠原「最初の脚本は全然内容が違っていたんです。『養蜂場が地元住民の反対運動を受けながらも奮闘する』といったストーリーだったんですけど、自分自身のことや友人のことなどをいろいろ語り合っていくうちに『介護』や『友の自殺』といった要素も足されていったんです。自然と女性の生き方をクローズアップした作品に変わっていきました。実際に撮影が始まると、母親役の高畑淳子さんから演技のご提案をいただいたりして、現場で作品が固まっていった部分もあります」

――介護というセンシティブなテーマは、演じるのも難しかったのでは?

篠原「やっぱり生半可な覚悟ではできないですよね。なので、まず介護に関する講習を受けました。監督と私、それに介護職員役のサヘル・ローズさんで具体的な介護の心がけや所作を教わったんです。さらに事前取材として介護のボランティアもやらせていただくつもりだったんですけど、こちらはコロナが拡大したことで中止になってしまったんです。介護に関しては本もたくさん読みました。介護で苦しんでいる方の手記を読むと、本当に言葉を失ってしまいます。介護のストレスが極限に達し、ついには殺害に至ることもあるとか…」

倉科カナさんが髪をバッサリ

――高齢化社会が進む日本では、目を背けられない問題ではあります。

篠原「1日だけの苦労じゃなく、ずっと続いていく日常ですからね。そこがつらいところ。私はクランクアップすれば解放されますけど、実際はそうもいかないですし。性格的に真面目な方ほど多くを抱え込んで、潰れてしまうような気がします。『行政だけで解決できる問題なのか?』ということも考えないといけないと思うんです。私自身も今回、作品を通じて介護についてずいぶん考えましたが…どうすればいいのか、いまだに答えは見つからないでいます」

――奥山プロデューサーも「これは女優さんの映画」と断言しています。篠原さん以外の方も、鬼気迫る演技に目を奪われました。

篠原「倉科カナさんは、香織という役をやるために髪をバッサリ切られたんです。脚本を読んだ時点で、そういうイメージを持たれたそうです。それが私にとってはすごく大きな出来事で、香織というキャラクターがはっきりすると同時に、私もスッと物語の世界に入ることができた。女同士ゆえに共有できる痛み、あるいは女同士ゆえに生まれる微妙な距離感…。これらは倉科さんとだからこそ表現できたと思います」

――母親役の高畑淳子さんも圧倒的な演技でした。

篠原「一緒に演じるのが怖かったです。自分も芯のしっかりした演技をしないと、底が見透かされてしまうというか。恥ずかしい話ですけど、高畑さんの前で唐突に泣いちゃったこともありますし」

――なぜですか?

篠原「単純に怖かったんです。私自身、撮影の途中から篠原ゆき子なのか役の美咲なのか混乱してしまっていたので、目の前にいるのが作品内の役の美津子なのか役者の高畑淳子さんなのか、もはや分からなくなってきちゃって…。高畑さんも監督も『どうしたの?』って唖然としていましたけど、それも当然ですよね。私もこんなことは初めてだったし、自分の感情をコントロールできなくなっていたんです」

――それくらい役に没入していたんでしょうね。

篠原「ラストシーンも苦労しました。撮るときに自分の感情が動かなくなってしまい、演技どころじゃなくなってしまったんですよ。もうどうしていいのか分からなくて高畑さんに泣きついてしまったんですけど、そこでも優しく笑いながら素敵なお言葉をくださって…。今回、高畑さんと一緒に共演させていただいたことは、間違いなく自分の大きな財産になりました」

――撮影時期もコロナと被り大変だったのでは?

篠原「出演者の方やスタッフさんと一緒に食事することは、ほとんどなかったです。重いテーマの作品でも、少し打ち上げで盛り上がったりすると、ストレス発散できて気分が軽くなったりもするんです。ある意味、それが良かったのかもしれないですけどね。重い雰囲気だったので、役作り的には恵まれていたかな(笑)」

――実際、作品の中でもコロナは大きな要素として描かれています。

篠原「やっぱりコロナによって、みんな知らず知らずのうちにストレスを溜め込んでいると思うんです。たとえば誰かを必要以上に攻撃したりとか…。女性の生きづらさや、やり場のない思いというのはコロナ前からあった問題ですけど、それがコロナによって浮き彫りになっている印象があるんですよ。でも私はいつかこの大変な時期すらも『あぁ、コロナか。そんなこともあったね』と懐かしく振り返る対象になると思う。人類はこれまでも様々な困難を乗り越え、現在に至っているわけですし」

コロナストレスの解消法

――ところで、篠原さん自身は普段どのようにストレス解消していますか?

篠原「お酒です!」

――即答ですね(笑)。

篠原「コロナ前は外のお店で飲んでいたんです。だけど最近はもっぱら家飲みですね。大きい紙の箱に入ったボックスワインって分かりますか? 赤・白問わず、あれにハマっています」

――失礼ですが、箱ワインってコスパ重視で安酒というイメージがあります。

篠原「いやいや、今はボックスワインもいろいろ種類が出ていて、美味しいのも多いんですよ。とはいえ、そこまで高額ではないから庶民的なのは間違いない(笑)。飲んでいるときは、キッチンで簡単なおつまみも作るんです。チーズと塩辛をあえたものとか」

――渋いですねぇ。

篠原「気を付けなくちゃいけないのは、家で飲んでいると際限なくなるじゃないですか。だから『1日グラスになみなみ1杯まで』というルールを作ったんです。たくさん飲むと太っちゃいますしね。そこは一応、『役者としてのプロ意識』と捉えていただければと(笑)。それで、家で陽気に酔っぱらってくると採点システムがあるカラオケのアプリを使って歌うんです」

――曲は何を?

篠原「中島みゆきさんの『糸』とか…。かなり音痴なんですけど、しっとり歌い上げる系の曲を入れて自己陶酔していますね(笑)」

――最後に映画『女たち』の見どころを改めて解説していただけますか。

篠原「今はコロナの問題もあり、生きるのが大変な時代になっていると感じます。この作品で起こる出来事は不幸のオンパレードなので、すごく暗い映画に感じるかもしれませんが、むしろ前向きで力強いメッセージが込められているんです。この時代だからこそ、ご覧いただく方に響くものがあるのではないかと思います。最近になって私が考えるのは、苦しいことがあるからこそ人生は楽しくなるということなんです」

――どういうことですか?

篠原「たとえばですけど、何も悩みなく不自由もない環境の中、ただ寝て食べて過ごすだけの人生がずっと続くとします。でも、それってすごく退屈に感じるときがくるんじゃないのかなって。個人によるかもしれませんが、少なくとも私自身はそうです。予期せぬアクシデントや思い通りに行かないことが人生をドラマチックに彩り、今そこにある幸せに気付かせてくれるんじゃないのか、それが生きるってことなんじゃないのかなって。この『女たち』をご覧になった方が、そういったものを感じていただければとても嬉しいです」

篠原ゆき子
神奈川県出身。タレント、モデルを経て、2005年に映画『中学生日記』で女優デビュー。13年に映画『共喰い』で第28回高崎映画祭最優秀新進女優賞を受賞し、20年にはドラマ『相棒』(テレビ朝日系)で出雲麗音役でレギュラー出演も果たすなど、映画やドラマを中心に活躍中。

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