マリーンズ16年ぶり優勝が潰えた日に届いたDM――“野球考古学者”キタトシオは十数年の鬱憤を原稿へ叩きつけた

キタ氏の連載記事
突き抜けた男たちの魂の叫びをお届けする、村瀬秀信氏による人気連載「死ぬ前までにやっておくべきこと」。今週は“プロ野球考古学者”キタトシオ氏のインタビュー完結編をお届けする。

「ベーマガに書けるなんて人生一度のチャンス」

「過去は前方にあり。未来は後方にあり」

アメリカのネイティブインディアン・ホピ族の教えにそんな言葉がある。

過去に起きたことは、すべてが“前に起きた”目の前で見ることができる事実である。

一方で、これから“後に”起こる未来のことは頭の後ろにあり、見ることができない。物理的な言い方で捉えればまったく逆の意味となってしまうが、時間軸で考えると意味が通じるレトリック。

キタトシオは野球史においても、過去に起きた数多の出来事は、これからの野球界がどうあるべきかの考え方を示唆するものであるとX(旧ツイッター)のトップページに自身を紹介する言葉としてこれを明示している。

そんな意味しかないトシオのXに『ベースボールマガジン』の編集者から連絡が来たのは2021年10月27日のことだった。

「その日はたまたまロッテにマジック3が付いていて、負ければオリックスが優勝という大一番の楽天戦。仕事後、早く試合を見なきゃと家路を急いでいると、ベーマガの方からDMが来た。

『今度川崎球場のロッテオリオンズ特集をやるので書きませんか』。そんな話がいきなり来たら震えますよね。

天下のベーマガです。なんで俺に? 後先考えずに『書きます』と返事しました。その後、試合を見るんですが、負ければマリーンズの今年が終わる超大事な試合をロッテオリオンズのことを考えながら見てたのは日本で俺だけでしょう」

最後の打者、佐藤都志也が空振り三振に倒れた瞬間。マリーンズの16年ぶりの優勝が潰えた。

「あ、終わったんだ」

トシオは我に返ると、「ベーマガに書けるなんてどうせ人生一度のチャンス。思い切り書いてやろう」と、川崎時代のロッテオリオンズについての本を読み漁り、不甲斐なく過ぎていった十数年の鬱憤を晴らすように原稿へ叩きつけた。