マリーンズ16年ぶり優勝が潰えた日に届いたDM――“野球考古学者”キタトシオは十数年の鬱憤を原稿へ叩きつけた

ウィキペディアに載っているようなことを書くのはプライドが許さない

’22年3月。野球界のど真ん中『週刊ベースボール』にて、トシオの連載『あの日、あの時、あの場所で』がスタート。

それは何度も諦めながら、古い野球と添い遂げる夢を叶えたリアル東京ラブストーリー。

さらにトシオの人生に追い風が吹く。「川崎球場に連れて行ってください」とツイッター(現X)で出会ったロッテファンの女性と付き合い始め、1年後にゴールインすることになる。

日々を死んだように暮らしていたサラリーマンは、趣味だった古い野球の一本勝負で終わりの見えない暗闇を抜け、週刊誌の広告みたいな成功を収めたのだ。

「それでも、本業は相変わらず厳しいなかでの週刊連載です。不安でしたが、ウィキペディアに載っているようなことを書くのはプライドが許さない。ここでやらなきゃ男じゃないですよ。

死ぬ気で取り組んだらできるもんです。幸い、昔の野球を調べるのは苦ではないし、ペースもすぐに掴めました。ストレスで10キロ太りましたけどね(笑)」

しかし、世間は出る杭に対し容赦なく嫉妬を投げつける。

トシオが仕事をすればするほど「見たこともないくせに見たようなことを書くな」とツイッターは荒れ、心は潰れそうになるのだ。

だが、もうトシオは以前のトシオではない。守るべき存在が、原稿を待ってくれている人たちがいる。

「これからAIの発達で手際よくまとめられた古い野球の記事はたくさん出てくると思うんですよ。そこに勝つには、古本にあるようなゴツゴツした情報を血の通った人間の情で調理する。

金儲けにはならないけど、僕が死ぬまでにやるべきことは『プロ野球昭和豪傑100人』と『ロッテ100年史』を遺すこと。2050年。68歳までやれたら『見てきたようなことを書くな』とは言われないでしょうからね(笑)」

4月9日。連載は100回を超えた。プロ野球考古学者キタトシオの人生を懸けた事業は、まだ始まったばかりである。

取材・文/村瀬秀信

「週刊実話」5月22日号より