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国民の3分の2が支持政党を持たない不幸~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』
森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』 (C)週刊実話Web

5月23日、政府は緊急事態宣言の対象地域に沖縄県を追加することを決定した。これにより、宣言の対象地域は10都道府県に拡大されることとなった。

先の14日に対象地域に加わった北海道、広島、岡山の3道県については、もともとの政府案はまん延防止等重点措置にとどめるものだったが、新型コロナウイルス感染症対策分科会の突き上げで方針変更を余儀なくされた。前例のない異常事態だ。

およそ政府の委員会というものは、御用学者が集められ、政府が示す政策案に黙ってお墨付きを与えるのが不文律になっている。分科会も今までずっとそうしてきたが、ここで反乱を起こしたのは政府案が看過できないほど手ぬるかったからだ。3道県の感染者の急増ぶりは、これまで緊急事態宣言が出された自治体を上回るものだったから、宣言を出さないという選択はあり得なかったのだ。

5月14日に人口10万人あたりの療養者数がステージ4に達した自治体は、23都道府県となっていたから、本来なら全国に対して緊急事態宣言を出さないといけない状況だった。ところが、政府にはその危機感がまったくなかった。

菅義偉内閣は、常に小出しで、後手後手の対策しか打たない。第1回の緊急事態宣言で昨年4~6月期のGDPは11兆円も減少した。しかも、昨年度は80兆円近い財政出動に追い込まれた。それを繰り返したくないのだろうが、政府による及び腰のコロナ対策を国民は冷たい視線で見ている。その証拠に、内閣支持率は菅内閣発足後の過去最低まで落ち込んでいる。

あのヒトラーが誕生したときのように…

時事通信の世論調査によると、5月の菅内閣の支持率は前月比4.4ポイント減の32.2%、不支持率は6.9ポイント増の44.6%となった。普通なら10月までに行われる衆議院選挙で、与党が惨敗してもおかしくない支持率になっている。

ところが、政党別支持率の前月からの変化を見ると、自民党が22.5%から21.4%へと1.1ポイント減、公明党が3.8%から2.6%へと1.2%減と、与党の支持率が減ったにもかかわらず、立憲民主党は増減なし、社民党も増減なし、共産党は0.3ポイント減と支持をまったく増やしていない。

増えたのは日本維新の0.3ポイント増、国民民主の0.2ポイント増、NHK党(当時)の0.2ポイント増だけ。結局、与党の凋落分はほとんどが支持政党なしに回った。支持政党なしが62.2%から64.8%へと、2.6ポイントも増加しているのだ。

危険な状態だと思う。既存政党の中に政権の受け皿があれば、政策のゆるやかな修正が可能だが、国民の3分の2が支持政党を持たない状況で深刻な不況が続くと、国民が極端な政策を掲げる救世主を求めてしまうからだ。

1930年代がそうだった。世界恐慌から続く不況下で、先進各国では国民が独裁者を誕生させた。あのヒトラーでさえ、選挙で選ばれて権力を手にしたのだ。そして独裁者たちは、まっしぐらに戦争への道を突き進んでいった。

独裁政権の誕生や戦争は、コロナ感染以上の厳しい制約を国民生活に与える。ワクチンの早期接種で日常を取り戻したはずのイスラエル国民は、パレスチナとの紛争でコロナ以上の自粛を余儀なくされた。混乱を防ぐために、今すぐ野党は政策調整を進めて国民が納得できる対案を示し、選挙協力体制を整えるべきだろう。もたもたしている時間はないのだ。

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