竹下登は「気配りで天下を取った唯一の男」田中角栄と双璧をなす“座持ちのうまさ”を元関係者たちが証言

竹下登(首相官邸HPより)
永田町取材歴50年超の政治評論家・小林吉弥氏が「歴代総理とっておきの話」を初公開。今回は竹下登(上)。

「竹下ほど気配りにエネルギーを費やした人物を知らない」

東京・永田町の首相官邸正門前の坂を150メートルほど下がったところに「TBR」というビルがあった。

国会議事堂も目の前ということから、このビルには政治家の個人事務所がいくつか入っていた。

立憲民主党の小沢一郎、元自民党幹事長の加藤紘一等々で、竹下登もまたそこの“住人”であった。

筆者はそうした議員へのインタビューなどで、昭和40年代から50年代にかけて何度もそのビルに通っていた思い出があるが、忘れられないのは1階でエレベーターを待っているときに扉が開くと、竹下が胸の前で合掌するような仕草で出てくることだった。

エレベーターの前で待っているビルの訪問客に、その格好で遠慮がちに軽く会釈をするのが常で、筆者もそうした場面を何度か目撃している。

そして、目撃者の多くはこの低姿勢ぶりに「田中角栄元首相の反発を買いながら創政会を立ち上げ、天下取りに執着する、あの竹下さんなのか」と、ある種の違和感を覚えるのだった。

「天下を取ろうという人物なら、もっとバイタリティーを感じさせるものではないのか」との“差異”に、驚いてしまうのだ。

ここで筆者が言いたいのは、竹下が徹底して周囲に気配り、目配りをし、反発を買うこと、敵をつくることを極力避けていたことである。

これまで筆者は、のべ何百人の国会議員に会ったか分からないが、竹下ほど気配りにエネルギーを費やした人物を知らない。

戦後の歴代総理のなかで、「気配りで天下を取った唯一の男」が、この竹下登という人物なのである。

例えば、その気配りぶりは、公私を問わず尋常ではなかった。

次のような証言がある。