“暗愚の宰相”鈴木善幸が魅せた人道主義「力量に欠ける」就任会見で驚きの発言も



夫人は退陣に憤まんやるかたない様子

手詰まりとなった鈴木に対し、メディアの一部からは「暗愚の宰相」と揶揄する声も上がっていた。

そうした鈴木の「横顔」を知るために、筆者が鈴木の自宅を訪ね、さち夫人にインタビューしたのは、その電撃的な退陣表明のわずか5日前であった。

東京・世田谷区経堂の鈴木邸は古びた木造で、公道からいささか引っ込んでいることから車の出入りも窮屈で、「総理邸」としてはかなり地味。「目白御殿」とも呼ばれた田中邸とは、“雲泥の差”と感じた。

さて、さち夫人は小柄で、じつにシャキシャキした物腰の印象。すでに夫人は、夫が5日後に退陣を表明することを知っていたと思われ、そんななかでのインタビューであった。

一方で、田中の発言や一部の非主流派の突き上げなどはあったものの、鈴木の総裁「再選」への空気は決してゼロではなかった。

さち夫人は、こう口火を切った。

「主人は人道的な人間なんです。カキみたいに、岩にしがみついてもという男ではありません。まぁ、主人の足を引っ張っている人たち、いまに分かるわ」

この“足を引っ張っている人たち”とは、鈴木派内に存在した“反鈴木”の幹部クラスで、彼らに向けられた憤まんと言っていい。

さち夫人へのインタビューの内容は、鈴木との“なれそめ”をはじめ意外性に満ちたものばかりであった。

(本文中敬称略/この項つづく)

「週刊実話」3月20日号より

小林吉弥(こばやし・きちや)

政治評論家。早稲田大学卒。半世紀を超える永田町取材歴を通じて、抜群の確度を誇る政局・選挙分析に定評がある。最近刊に『田中角栄名言集』(幻冬舎)、『戦後総理36人の採点表』(ビジネス社)などがある。