風呂のお湯は6分目!「もったいないの大平」の異名をとった“贅沢嫌い”大平正芳の謹厳実直ぶり



風呂の湯6分目が上機嫌

その際、大平の生地でもある観音寺市で、実弟が管理する「大平文庫」を訪れて仰天した覚えがある。

なにしろ書棚には蔵書およそ7000冊、実弟によれば「まずページをめくっていない本はない。どちらかと言えば、人のいるところ、テレビの音が鳴っているようなところで読むのが好きだった」とのことで、蔵書のジャンルは多岐に及んでいた。

古今東西の政治、哲学、宗教関連書はもとより、果ては推理小説やクイズの本まであり、当時、ベストセラーになっていた『HOW TO SEX 性についての方法』を見つけ、あの堅いことで知られた大平がと、いささかニンマリしたのを思い出すのである。

一方で大平は、これも政治家としては珍しく、首尾一貫した“贅沢嫌い”で、「もったいないの大平」という異名があった。

そしてまた、根が几帳面な男でもあった。

関係者による“伝説的証言”が残っている。

「自宅で人のいない部屋に電灯がついていると、それを発見するや、すぐに自ら消しに行く」

「風呂は“カラスの行水”で、自分が出るときには、すかさず『おーい。次、入れッ』の声が飛んだ」

「風呂のお湯は6分目にしておくと機嫌がよかった。8分目まで入っていると、人が入った際にお湯が溢れるから、これは無駄だという考え方だった。家人は、お湯が入りすぎていると、大平に分からぬよう桶でお湯をかい出して捨て、それからおもむろに大平を呼ぶことにしていた」

「外務大臣のとき、夜、車で外務省の前を通りかかると、たくさんの部屋に電灯がついていた。大平は翌日、本当に人がいて電灯をつけていたのかを調べさせ、以後、大平の大臣在任中は、人のいない部屋の消灯が義務づけられた」

「大平家のお手伝いさんが、大平に一喝されたことがある。ワイシャツを1日でクリーニングに出してしまったからで、大平は2日着るのを常としていた」

これらにつけ加えるなら、秘書官らがつくった日程表は必ず自分の手で手帳に書き写し、再確認していたそうである。