第3次バナナブームが到来している。農林水産省の輸出入統計によれば、2020年度におけるバナナの輸入額は約1052億円と過去最高を記録した。日本国内で流通するバナナの輸入依存度は99.9%なので、輸入額が過去最高ということは、それだけ国内消費が伸びていることになる。
なぜ、バナナブームが起きているのか、今後、ブームはさらに加速するのか。その背景を探るために、まずは日本における「バナナ史」を振り返ってみたい。
「日本に初めて輸入バナナが入ってきたのは1903年(明治36年)のこと。当時、台湾は日本の統治下にあったので、輸入ではなく〝移入〟という言い方をされていた。甘くておいしい台湾バナナは瞬く間に日本人を魅了し、明治末期から昭和初期にかけて、入荷量は年々増えていきました」(フードアナリスト)
しかし、バナナに庶民の手が届くようになった頃、日中戦争に続き太平洋戦争が勃発。戦争末期には、バナナは国から不要不急の物資と指定され、庶民には高嶺の花となってしまった。
「戦後の混乱期を経て1963年にバナナの輸入が自由化されると、ようやく庶民も手頃な価格で購入できるようになり、いわゆる第1次バナナブームが到来しました」(同)
その後、バナナは手軽に入手できる果物の代表的な存在となり、かつての高級品としてのありがたみも薄れつつあった。ところが、2006年ごろにバナナダイエットが喧伝され、空前の第2次ブームが到来する。当時は、全国のスーパーからバナナが消えるという怪現象まで起きるほどだった。
抵抗力アップなどバナナの効能に注目が
「第2次ブームは次第に下火になっていったが、潜在的に日本人はバナナ好きなのでしょう。2018年に総務省の家計調査支出額で、バナナがリンゴやミカンを抜いてトップに立つと、以後、じわじわと消費が伸び、現在は第3次ブームと呼ばれています」(同)
全国各地でバナナ専門店が続々とオープンしていることや、タピオカに続くバナナジュースのヒット、国産バナナが高額にもかかわらず売れていることなどからも、ブームの到来をうかがい知ることができる。それでは、第3次ブームの理由はどこにあるのか。
「まず、多種多様なバナナが販売されるようになり、消費者が自分の好みで選択する楽しみが増えました」(経済紙記者)
例えば、かつてバナナといえば、すべてほぼ同じ甘さや形だった。しかし、現在はデパ地下やスーパーの店頭に、十数種類ものバナナが並んでいることも珍しくない。
「この背景には生産者の研究努力によって、2000年ごろから高地栽培の品種が増えたことがある。高地バナナは平地より成長が遅く、収穫までおよそ1年以上かかるが、昼夜の寒暖差により糖分に変換されるデンプン質が増える。そのため、高地バナナは糖度が高いのです」(同)
また、スポーツ人口の増加もバナナ消費に関係しているという。
「従来のスポーツ愛好者に加え、抵抗力アップや運動不足解消のため、自宅でトレーニングする人が増えた。これらの傾向が、バナナ消費の増加につながっているとみられます」(同)
コロナ禍で健康面にスポットが当たったことで、バナナの効能も見直された。
無農薬栽培で皮ごと食せる日本のバナナ
「バナナには抗酸化作用が強く、がん予防などに欠かせないビタミンA、ビタミンC、ビタミンEや、ケルセチン、リコペン、ポリフェノール類などが豊富に含まれています。また、〝巣ごもり〟が長引き、精神的にもイライラする人が増える中、セロトニンを多く含むバナナにはリラックス効果が期待できます」(前出・フードアナリスト)
ところで、冒頭にも記したように、バナナ消費の大半は輸入が占めているが、国内でもバナナ栽培が活発化している。
「これまでバナナの生産地といえば、中南米や東南アジアなど赤道直下から南北それぞれ30度以内、熱帯や亜熱帯地域の〝バナナベルト〟と相場が決まっていた。しかし、ここに風穴を開けつつあるのが、日本の農作物研究家たちです」(農協関係者)
中国地方の農業法人が、バナナの成長細胞をいったんマイナス60度で凍結した後、それを常温で自然解凍し、苗を発芽させる「凍結解凍覚醒法」を開発。2016年から国産バナナを販売している。
「この苗で成長したバナナは、高温地でなくても実をたわわにつけ、既存のバナナと遜色ない味になる。今は秋田で『雪国ばなな』も販売されています」(同)
しかも、日本ではバナナにつく病原菌が繁殖しないため、無農薬栽培が可能になり、皮を含めて丸ごと食べられるという。実は、皮は中身より栄養価が高いともいわれ、当然ながら食法も、かつてないものとなる。寒冷地でのバナナ栽培にもめどが立ち、各方面から大いに注目されている。
今後、国産バナナの栽培が増加すれば、味や種類がさらに豊富になることは確実。そして、ゆくゆくは一過性のブームにとどまらず、永続的なバナナ人気を後押しすることになるだろう。
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