田中角栄の代名詞「今太閤」の名付けにも関与! 政治記者も目を剥く「造語名人」だった福田赳夫の洞察力



自民党総裁選では発言が裏目に

この予備選挙には福田のほかに、時の大平正芳幹事長、中曽根康弘総務会長、河本敏夫通産大臣の4人が立候補した。

党員・党友による予備選での上位1位と2位が、国会議員による決選投票を行い、1票でも多く取ったほうが総裁になるという取り決めで、現行の自民党総裁選の原型となるものであった。

さて、この予備選におけるマスコミ各社の事前予測は、「福田1位」が圧倒的であった。

これに気をよくしてか、福田は開票直前の記者会見で自信たっぷりにこう言い切っていた。

「この予備選は、党近代化の試金石だ。本選挙(決選投票)では、国会議員一人一人が良識にしたがって投票すべきで、予備選はその良識を決める大きな要素となるべきだ。そうでなくては、党員・党友が収まらないのではないか」

ここで言う「良識」とは、予備選で1位になった者を国会議員の本選挙でひっくり返すようなことがあっては、民意を裏切ることになるということである。

いかにも「覇道」を拒否する、「王道」志向の福田らしい発言であった。

しかし、この発言が裏目に出た。いざ予備選のフタを開けると、なんと大平がグングン票を伸ばして最終的に1位、福田は2位に甘んじる結果となったのだ。

振り返ってみれば、自他共に「選挙プロ」と認める田中角栄率いる田中派が、この予備選で大平を全面的にバックアップし、全力投球で汗を流していた。

一方で、福田陣営は楽観していたのか、運動中に手をこまぬいていたのだった。

予備選の最終結果を見届けて、福田はこう言った。

「天の声にも変な声がある。敗軍の将、兵を語らずだ」

選挙上手の田中にしてやられた無念が漂う、「天の声にも変な声がある」との表現だったのである。