広東省「車暴走事件」で発覚した中国にはびこるデマ拡散と犯罪記録改ざんのあきれた“裏事情”



治安維持“ノルマ”が犯罪記録を歪める温床に

事件発生後、現地入りしたBBC記者に詰め寄る中国人男性(中国SNSより)
中国警察への通報用の電話番号『110番』は、市や町の専用窓口に直接つながる。

そして日本と同じように、状況や場所をできるだけ具体的に伝えれば対応してもらえる。

ところが、110番通報は、その場所を担当する警官にとっては都合が悪い。

なぜなら事件が多発すればするほど、そのエリアの治安は悪いという評価が下される。すなわち、日頃の治安維持業務を怠っているとみなされるからだ。

「住民人口あたりの110番通報件数で、治安の良し悪しは判断されています。その基準を超過しないことが治安維持の“ノルマ”です。だから現場の警官は、なるべく“上”に知られることなく、現場で処理しようとします。なかには敏腕警官もいるので頼りになるケースもあります。しかし同時に、仲良くしすぎるあまり、犯罪記録が歪められる場合も多々あります。ノルマの存在を知って依頼するほうも悪ければ、受けるほうも悪い。賄賂の温床にもなっています」(前出同)

総額12億3100万元(約253億円)の賄賂――。中国国営テレビは今年初め、遼寧省の警察トップが3代にわたり巨額の賄賂を受け取っていた事件を報じている。

前出したSNS上のデマ投稿の一部は、さっそく当局により閲覧が規制されている。

だが、そんなその場しのぎをしたところで、警察に対する不信感は拭えないだろう。

文/北上行夫

北上行夫(きたかみ・ゆきお)

ジャーナリスト。香港メディア企業ファウンダー。2001年より日系コンサルタント会社やローファーム向けに中国本土を含むASEAN販路開拓業務に従事。香港人/日本人/大陸人/華僑の不条理に挟まれ20年余、2018年より日本支社プロジェクトマネージャー。2023年より中華圏マーケット調査&ライターが集う「路邊社」に参画。テーマはメディアが担う経済安全保障。X(旧Twitter):@KitakamiYukio