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トランプ大統領コロナ感染は致命傷か?~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎 
森永卓郎 (C)週刊実話Web

10月2日にアメリカのトランプ大統領が、新型コロナウイルスに感染したことが明らかになった。その後、関係者の感染が次々と発覚し、ホワイトハウスはさながら集団感染の様相を呈している。

同5日の夕方、半ば強引に退院した大統領だが、これまで「新型コロナは軽いかぜのようなもの」「新型コロナは終息が完全に見えてきた」など、感染対策を軽視する発言を繰り返し、大統領選挙の支持者集会でもほとんどマスクを着用しなかっただけに、なんとも皮肉な事態となった。

しかも、新型コロナとの戦いはまだ終わったわけではない。患者の中には退院後、再び体調が悪化して再入院するケースも多く、問題は11月3日に迫った大統領選挙への影響だ。

私は、影響の大きさは、トランプ大統領がどの程度の症状に陥るかにかかっていると思う。まず、純粋に確率で考えてみよう。アメリカの新型コロナによる年齢別死亡率を見ると、7月4日の時点で、65歳から74歳は20.6%、75歳から84歳が26.0%となっている。

大統領は74歳だが、早期に感染が発覚したうえ、なおかつ世界最先端の治療を受けているのだから、死亡する可能性は、ほとんどないとみるべきだろう。

しかし、新型コロナ感染症は、人によって重症化の度合いが大きく異なることが知られており、どの程度の症状になるかは、いまのところ分からない。

ただ、軽症に終わった場合、トランプ大統領にとって、コロナが逆に追い風となる可能性が高い。コロナを克服した強い大統領をアピールできるからだ。実際、ブラジルのボルソナロ大統領は、コロナ感染のあとに支持率が上昇しているし、イギリスのジョンソン首相も同様の状況だった。

もし大統領選に負けても法廷闘争に持ち込む!?

一方、もし重症化した場合はどうなるのか。普通に考えれば、選挙には不利に働く。トランプ大統領が重視してきた大人数を集めた支持者集会が開催できなくなる上に、テレビ討論会にも出られなくなるからだ。ただ、その場合でも、同情票が集まる可能性があり、大統領が惨敗することはないだろう。

もちろん、トランプ大統領がコロナ対策を軽視し、政権中枢に感染を広げてしまったことや、支持者にマスクを付けない風潮を広げたことは、強く非難されるべきだが、それが選挙を大きく左右することには、結びつかないとみられる。

一番可能性が高いと私が考えるシナリオは、郵便投票を含めるとバイデン氏が僅差で勝利するものの、トランプ大統領が「郵便投票は不正で認められない」と言って大統領の座に居座り続けるというものだ。

実際、テレビ討論会でも大統領は、選挙の結果を受け入れない可能性を表明している。そうなれば、当然、法廷闘争になるが、大統領は最高裁判事の人事で保守派を過半数にするなど、すでに布石を打っている。

憲法の前文で「正義の樹立」をうたっているアメリカのトップが、そんなことをしたら、同国への信認は根底から揺らぐだろう。トランプ大統領は、アメリカ・ファーストを掲げたが、本音は「自分ファースト」だったのかもしれない。

早期退院で強さをアピールしたトランプ大統領だが、周囲に感染させるリスクを無視して選挙を優先する姿勢を、果たして米国民は支持するのだろうか。

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