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止まらない円安に動かぬ日本~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

円安が止まらない。6月13日に対ドル為替は1ドル=135円台に突入した。年初は115円だったから、半年で20円も円安が進んだことになる。

円安は国民生活に深刻な影響を及ぼしている。石油や穀物などの資源高に加えて、円安がダブルパンチとなって物価が上昇しているからだ。4月の消費者物価(生鮮食品を除く)は前年比2.1%の上昇にとどまったが、5月の国内企業物価指数は前年比9.1%上昇となり、消費者物価は今後一段と上昇する可能性が高い。

これまで円安は、日本経済にとってプラスになると考えられてきた。安い価格で輸出が可能になるので、日本からの輸出が増加して経済が成長する。と同時に、対外直接投資から得られる配当などの海外収益を円換算したとき、その額が増えるからだ。また、円安はインバウンドも増加させる。実際に日本銀行は、一貫して「円安は日本経済にプラス」と主張してきた。

しかし、円安によって物価が上昇するというデメリットと比べると、輸出増加のメリットは遅れてもたらされる。国内に工場を新設し、生産能力を高めるには時間がかかるからだ。

ただ私は、時間の問題だけでなく、輸出はさほど増えないと考えている。1つの理由は、いまの円安が中長期的に続くという確信が持てないことだ。円安は、日米の金利差が拡大したことによってもたらされている。金融引き締めで米国の景気が失速すれば、米国の金利が下がるから、金利差が縮小して為替は再び円高に向かう。そうなったら、国内の生産能力拡充が無駄になってしまう。

「急激な円安を憂慮している」のみ

もう1つの理由は、政治的な問題だ。例えば、わが国最大の輸出競争力を誇る自動車産業に、国内回帰の動きはほとんど見られない。2020年における日本の四輪車の生産台数は、807万台と30年前に比べて40%も減少している。日本の自動車産業が衰退したからではない。生産拠点が海外に移ったからだ。いまや四輪車の海外生産比率は66%に達しているのだ。

日本の賃金がG7最安になっているところに、この円安である。どう考えても欧米の工場を閉鎖し、日本で製造した自動車を輸出したほうが有利なはずだ。ところが、欧米工場の閉鎖の話はまったく出てこない。なぜなら欧米への工場進出は、コストを抑制するためではなく、貿易摩擦を回避する手段だったからだ。だから、欧米からの撤退には大きな勇気がいるが、岸田政権にはその覚悟がないのだろう。

為替レートが134円台と、20年ぶりの円安になったことを受けて、財務省と金融庁、および日銀は、6月10日に緊急三者会合を開いた。私は政府がようやく重い腰を上げて、為替介入に踏み切ると思った。いま介入すれば、莫大な為替差益を得ることもできる。絶好のチャンスだ。ところが、結果は「急激な円安を憂慮している」とのコメントを発表しただけで、具体的な行動を何も取らなかったのだ。

通貨防衛を自由にできない。国内でのモノづくりも自由にできない。これでも日本は独立国と言えるのだろうか。対ドル為替は近く140円台に突入するという見立てもある。そうなったら、日本の企業が二束三文で買い叩かれて、外資の餌食になる。無抵抗の日本は、いよいよ経済の終末を迎えることになるだろう。

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