【深淵ホラー劇場:映画界が封印した『G級の神々』】#12 フランス発・異色ホラー『ハウス・オブ・VHS』——ゴーティエ・カズナーヴ監督が語る“偶然から生まれた恐怖”

じわじわと観る者の神経を侵食してくる奇妙なインディーズ・ホラー『ハウス・オブ・VHS』をご存知だろうか?

フランスのホラー映画といえば『マーターズ』や『ハイテンション』のような衝撃的な過激描写で知られる作品群を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、その系譜とはまったく異なる場所から、じわじわと観る者の神経を侵食してくる奇妙なインディーズ・ホラーが存在する。

それが『ハウス・オブ・VHS』だ。

若者たちが“恐怖の家”に閉じ込められ、VHS映像の編集に取り憑かれていく――。血しぶきではなく、終わりのない違和感と精神的な圧迫感で観客を追い詰める類を見ない異色のホラー映画である。

しかもこの作品、制作現場の崩壊によって“偶然”生まれたという。
一体どんな監督が、こんな映画を作り上げたのか。

彼の代表作『ハウス・オブ・VHS』は、フランスのインディーズ・ホラー映画の中でも異色の存在であり、低予算ながら強烈な印象を残す“実験的ホラー”として語られることが多い。ファウンド・フッテージや映像メディアへの依存をテーマにしたカルト映画やVHSホラーの系譜に位置づけることもできるが、そのどれにも完全には属さない。

若者たちが恐怖の家でVHSビデオの編集中毒になっていく様を観客がひたすら観察するという形容しがたい体験は、観客の精神に不気味な違和感をじわじわと植え付けていく。

こんな映画を作ったゴーティエはどんな人物なのか?

ゴーティエ・カズナーヴは1980年代にパリで育った。パリは世界で最も映画館が多い都市であり、当時はVHSが隆盛を誇っていた。日本と同様に街のビデオ店には、大ヒット作と同じ棚に怪しげなB級映画やカルト作が並んでいたそうだ。

サシャ・ギトリ、ルネ・クレールや『ザ・タワー』のギョーム・ニクルーの映画を愛するというゴーティエは語る。

「幼い頃はゾロになりたくてフェンシングのレッスンを受けていました。でも、自分が本当に興味を持っているのは映画出演ではなく、映画を作ることだとすぐに気づきました」。

9 (12).webp 80.8KB


◆ このホラー映画はいったい何だ?『ハウス・オブ・VHS』誕生の秘密!

怪作『ハウス・オブ・VHS』が作られた経緯をゴーティエに尋ねた。

「私の会社マルトー・フィルムズ(Marteau Films)が2012年に設立されたとき、メインプロジェクトは『シャーロック・ホームズ対フランケンシュタイン』という脚本でした。予算は300万ユーロから500万ユーロと見積もられていましたが、初心者にとって、そのような予算を調達するのは非常に困難でした。そこで、足がかりとして『ハウス・オブ・VHS』を自主制作することにしたんです。クラウドファンディングで数千ユーロを集めましたが最終的な予算は驚くほど少額です」。

当初の構想ではモンスターや過激な描写満載のホラー映画になる予定だったが、制作は予想以上に混乱を極めたという。

「スタッフはごく少数で、プロダクションデザイナーも小道具係もアシスタントも誰もおらず、特殊効果担当の女性は結局姿を見せませんでした。彼女は、私たちが映画のために集めた小道具、つまりビデオデッキの部品や溶けたVHSテープなどをすべて持っていたのです」。

ゴーティエは衝撃的な制作秘話を続ける。

「そのため撮影しながら脚本を書き直し、特殊効果を大幅に減らし、キャラクター中心の作品にせざるを得ませんでした(特殊効果シーンはほとんどなく、それらはすべて主要撮影終了から数ヶ月後に撮影されたものです)」。

つまり、特殊効果のスタッフが小道具一式を持って姿をくらましたために『ハウス・オブ・VHS』という唯一無二の映画が完成したのだ。

つまりこの作品は、狙いすました計算ではなく“事故”と“混乱”によって偶発的に完成した奇跡のホラー映画とも言えるだろう。

8 (12).webp 63.5KB

◆ カルト映画ではない?国籍名キャラクターと海外配給の真相

ところで、『ハウス・オブ・VHS』はフランスではカルト映画なのだろうか。

「この映画は英語で撮影され、主に英語圏の国々で配給されました。カナダではBlu-ray版が、オーストラリアでは素敵な『レトロな』エディションが発売されました。ご知の通り、日本、韓国、台湾、インドなど、いくつかのアジア諸国でも配給されました。しかし、フランスでは2024年まで公開されず、その際にフランス語吹き替え版が制作されました。フランスでは決してカルト映画ではありません!」

登場人物たちは当初、性格に基づいて「バカ野郎」「オタク」といったニックネームで呼ばれていたが最終的には各登場人物の国籍が名前として与えられることになった。

「登場人物に名前を与えないのは意図的なもので、ホラー映画によくある『アンディ、アンディはどこ?ああ、サンディもやられた!サンディ!』という叫び声を避けるためだったんです」。

結果として『ハウス・オブ・VHS』は、さらに輪をかけて不気味で奇妙な映画になった。まさに彼にしか作れない映画である。

【関連】 【日本初インタビュー】『墓地裏の家』メイ役シルヴィア・コラティナが明かすラストシーンの真相 ルチオ・フルチ作品とイタリアン・ホラー復活への思い