斉藤由貴『青空のかけら』が映す“まだ日本も若かった”1986年の夏【スージー鈴木の週刊歌謡実話第46回】

あどけなさと色気が同居する歌声

当時の斉藤由貴の魅力を説明するのは難しい。妙にあどけない声と妙に色っぽい肢体(当時、水着写真集を買いました)の両立。どちらかに偏りがちなアイドル界の中で、彼女は少女と大人を併せ持つ不思議な存在でした。

さらには歌手と俳優の両立。この’86年、デビュー2年目にして、すでに朝ドラ『はね駒』のヒロインに抜擢されているのです。

演技もなかなか無難なもので、つまり少女か大人か歌手か俳優か……定義不能、「斉藤由貴」という一つのジャンルを築き上げた感がありました。

さて、私にとってこの曲の魅力は、松本隆の歌詞、武部聡志の編曲もさることながら、何といっても斉藤由貴の声ですよ。
 
歌い出し「♪あおぞらのーーかけらー」の「のーー」を発声に耳を澄ませてください。この曲は、ここだけを聴けばいい。

当時、実に妙な気分になるのでした。何というか、決して聴いていけない禁断の声を聴いちゃった感とでもいうか。いや白状すれば、今でも、そんな気分になる。

40年前の夏休みの終わり、長野県のどこかで行われた大学のサークルの合宿に行きました。

夕食の後、飲み会の前のちょっとした時間、同級生男子が雑魚寝する和室に戻ったら、テレビの歌番組が流れている。斉藤由貴が例の声でこの曲を歌い、そして菊池桃子も、あの独特な声で『Say Yes!』(’86年)を歌っている。

私含め20歳になる、か、なった同級生男子が、2人の奇妙な歌声に包まれて、テレビの前で悶々としていた40年前の夏休み――。

まだ私も、斉藤由貴も、そして日本も若かった頃の話。40年前の8月のかけら。

「週刊実話」9月17・24日号より

スージー鈴木/音楽評論家

1966(昭和41)年、大阪府東大阪市出身。『9の音粋』(BAYFM)月曜パーソナリティーを務めるほか、『桑田佳祐論』(新潮新書)、『大人のブルーハーツ』(廣済堂出版)、『沢田研二の音楽を聴く1980―1985』(講談社)など著書多数。