爆撃、銃撃、そして兵士たちの死――映画『戦場0地点』が映し出すウクライナ戦争のリアル【やくみつるのシネマ 小言主義 第303回】

戦争前の「ゼロ地点」に戻れるのか

この映画は、現代戦争の恐ろしさ、受け入れ難さを我々に突きつけてくると同時に、家族にとっては彼らが生きていた最後の記録にもなっているわけです。

多くの犠牲を払ってやっと奪還した村は、ロシア軍によって、ここまで破壊し尽くす必要があるのかと思うくらいの瓦礫の山。そこに黄色とブルーのウクライナの国旗が掲げられます。

貴重な命と引き換えにしてまで守りたいのは土地そのものではなく、民族の尊厳と未来。一歩も引く気はない理由が静かに伝わってきました。

10年以上前、自分はウクライナに行ったことがあります。そのときに聞いたのは、ロシア人とウクライナ人の意識の温度差でした。

ロシア側はウクライナを友好国だと思っているのに、ウクライナ側にはそんな感情はまったくない。そのことにロシア人が驚いていると聞きました。

戦争が始まる前の「ゼロ地点」に巻き戻すことはできないのかと、動悸が止まらない恐怖の中で、考えずにはいられませんでした。

『戦場0地点』
監督・脚本・撮影:ミスティスラフ・チェルノフ 編集・製作:ミシェル・マイズナー 製作:ラニー・アロンソン=ラス 共同製作・追加撮影:アレックス・バベンコ 音楽:サム・スレーター 配給:アンプラグド 9月4日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開

「週刊実話」9月10日号より

やくみつる

漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。