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『カラー新版 地名の世界地図』(文春新書:21世紀研究会編 1485円)~本好きのリビドー/悦楽の1冊

『カラー新版 地名の世界地図』(文春新書:21世紀研究会編 1485円)~本好きのリビドー/悦楽の1冊
『カラー新版 地名の世界地図』

アメリカが「米」ならフランスは「仏」、ドイツが「独」でイタリアは「伊」。言うまでもなく諸外国の一文字略称だが、この漢字表記は一体誰が決めたのか、ニュージーランドの場合は「乳」になるのだそうで。

意味からすりゃ「新」の方がよっぽど適当な気がするが、それならまだしも中東のシリアになると何と「尻」。とすれば将来仮に両国間にまさか戦端が開かれた暁には〝乳尻戦争〟になる訳で、これじゃあ安手のAVのタイトルと変わらない…とは同業の芸人「きくりん」氏のネタ。

とはいえ酷い表記例は他にもあって、ラオスが「裸」で国民の幸福度の高さが評判のブータンにいたっては「豚」でもう、単なる駄洒落な上にただ失礼なだけに思えてくるものの、しかし国名や地名の由来を探るのはあくまで楽しい。

世界史の“再勉強”にも最適

関ケ原の合戦で徳川家康が本陣を据えた場所は桃配山だったが実は曰くがあり、壬申の乱(672年)の際に勝利を収めた大海人皇子=のちの天武天皇が、自分に味方した兵たちに桃を分け与えた故事から名付けられたのだとか。千年近く昔のこの逸話を知っていた家康が、験担ぎの意も込めて選んだのだという。

この種のエピソードが地球規模で、これでもかと詰まった本書。どの章からページを開いてもたちまち引きずり込まれる面白さで、一冊に圧縮した世界史を大人の再勉強として読むのにも最適だろう。ちなみに幕末に遣欧使節団の一員となってヨーロッパを訪れた福澤諭吉が、明治2年に出版した『世界國盡』が参考までに紹介されるが、その地名や人名表記の仕方が傑作だ。アラビアを「荒火屋」と気候を感じさせて書く一方でカナダは「金田」の素っ気なさ。コロンブスが「古論武士」なのもおかしい。

(居島一平/芸人)