現在、木材価格が世界的に上昇し、1970年代のオイルショックならぬ「ウッドショック」の影響が、新築住宅や家具などに出始めている。
住宅の施工業者によれば、コロナ前と比べて木材平均では1.5倍前後、物によっては4倍の価格上昇が見られるという。
その背景には、米国や中国などで住宅の着工件数が急増し、世界的な〝木の争奪戦〟の結果、輸入木材の仕入れ値が高騰したことがある。
今後、このウッドショックはいつまで続くのか、また、有効な打開策はあるのかを探ってみた。
「新居を8月着工予定で、今年1月に契約したのですが、5月に業者から『木材価格の異常な値上がりで、プラス70万円ほど何とかしていただけないか』と泣きつかれた。最初は断ったがニュースなどでウッドショックを知り、渋々ですが了解しました。先延ばしにすれば、さらなる価格高騰があると思ったからです」
こう語るのは30代のサラリーマン・Aさんだ。今年に入ってAさんと同様に、施工業者と再契約したり、着工を見合わせたりするケースが相次いでいる。
冒頭に示したように、米中での住宅需要の高まりがウッドショックの直接的な原因だ。林野庁関係者が解説する。
「特に米国では、コロナ禍を契機にテレワークが普及した結果、大都市から郊外への移転希望者が増加。そこにワクチン接種が進み、コロナが沈静化した昨年末ごろから景気が再上昇したこと、加えて住宅ローン金利が10年前の半分の2%台になったことで、戸建て住宅を郊外に建てる人が続出したのです」
米商務省の統計によれば、2021年における米国の新設住宅着工数は150~170万戸レベルで、これは06年以来の高水準だ。
なぜ「森林大国」の日本が影響を受けるのか…
それに伴い米国の木材価格は、今年4月の時点で昨年同期比3倍もアップ。それでも米国民の建築意欲は衰えず、まさに「建築バブル」が続いている。この傾向はコロナ禍を乗り越えた中国も同様で、地方都市でも高級住宅が飛ぶように売れているという。
また、ウッドショックの要因としてもう1つ挙げられるのが、木材を運ぶコンテナ船の不足だ。
「一足早くコロナ抑制に成功した中国が、世界の巣ごもり需要に応える消費財の運搬のために、次々とコンテナ船を押さえているんです。また、世界の主要港における滞船、実入りコンテナの搬出や空コンテナの返却の遅れなどから、コンテナ不足が生じて運賃が高騰しています」(同)
しかし、日本は国土の約7割が森林という、先進国ではトップクラスの「森林大国」である。それがなぜ、米中の建築ブームや木材高騰の影響を受けるのか。木材卸売業者が明かす。
「60~70年前の日本は林業が盛んで、ほとんど国産木材で建築がまかなわれていました。そこに1964年、前回の東京五輪の年に木材輸入が自由化され、安い外国産が大量に入ってきた。さらに、林業に携わる人の高齢化と人手不足が加わり、木材の60%以上を輸入に頼るようになったのです」
財務省の統計によれば、製材品での輸入国トップはカナダで約24%を占める。そして、丸太となると米国産が約70%という状況。そのため、北米両国で材木の価格変動が起これば、日本がストレートに影響を受けるのは当然なのだ。
国土交通省は“様子見”の姿勢
外国産木材の高騰により、建築業界は国産木材の確保に動いたが、それもすでに品薄になっている。工務店関係者が言う。
「農林水産省の統計によると、今年4月にスギの丸太の価格が、昨年同月比10%上昇となった。だが、現場はもっと値上がり感がある。木材住宅の建築費のうち、木材価格は一般的に約1割程度といわれており、最近の木材価格の上昇分を単純に転嫁すると、建築費が100万円前後アップする可能性もある」
建築業界の担い手は幅広く、大工や左官などの職人、設備や電気などの工事会社などにも、問題が波及するのは確実だ。
それにしても、時ならぬウッドショックは今回が初めてではない。製材業関係者が振り返る。
「過去にもウッドショックは起きています。一度目は92年前後、米国で絶滅危惧種のフクロウ保護のため森林伐採の規制が進み、木材の供給不足になりました。二度目は08年のリーマンショック直前、世界的な好景気で建築ラッシュとなり、木材価格が上昇しました」
三度目の今回、国はどう動くのか。全国紙の経済部記者が語る。
「国土交通省は、必要があれば国産木材の長期調達に取り組むという様子見の姿勢です。しかし、建築業界では、長期の木材高騰が続けば業者も施主もダブルパンチを受けると、国の対応の遅さを懸念しています」
コロナウイルスとの闘いを勝ち抜いた米中、その余波でババを引いたのが日本のウッドショックだ。これを契機に、日本でも山主から建築業者まで、不測の事態にも揺るがない木材の安定供給システムの確立を急ぐ必要がある。
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