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『にっぽんセクシー歌謡史』著者:馬飼野元宏~話題の1冊☆著者インタビュー

『にっぽんセクシー歌謡史』著者:馬飼野元宏~話題の1冊☆著者インタビュー
『にっぽんセクシー歌謡史』リットーミュージック/2200円

『にっぽんセクシー歌謡史』リットーミュージック/2200円

馬飼野元宏(まかいの・もとひろ)
音楽ライター、編集者。主な編著に『昭和歌謡ポップス・アルバム・ガイド』『昭和歌謡職業作曲家ガイド』『HOTWAX歌謡曲名曲名盤ガイド』(シンコーミュージック)など共著多数。

――そもそも〝セクシー歌謡〟とは、どんなジャンルの音楽なのでしょうか?

馬飼野 お色気歌謡のアップデート版です。お色気歌謡は戦後のお座敷ソングの流れの延長にあるものですが、園まり、奥村チヨといった歌手が大きな成功を収めたことで60年代に男性向けの歌謡曲として、いちジャンルを築きました。松尾和子や青江三奈などのムード歌謡もこの時代ですね。60年代終盤、辺見マリの登場によって、歌手の美貌を前面に押し出し、艶やかな肢体と振り付けで歌うスタイルに変わったことで、テレビ時代に対応したビジュアル面の強調と、パフォーマンス込みのセクシー表現に進化したものを「セクシー歌謡」と呼んでいます。

――代表的な歌手はどんな方がいるのですか?

馬飼野 先に紹介した辺見マリに加え、その先駆者的存在だった奥村チヨ、さらに大変身して登場した山本リンダ、夏木マリといった人たちです。奥村チヨは声質に官能表現を持ち合わせていたことから、69年に『恋の奴隷』の大ヒットを生み出します。山本リンダはいわゆる「かわい子ちゃん歌手」でしたが、おへそを出し、アクションを交えて歌い踊るスタイルを確立しました。

時代と共に消えてしまった理由…

辺見マリは最初からこの路線で、そこが異色でしたね。夏木マリは、当初は本名でデビューしたもののまったく売れず、改名して女豹のように妖艶なイメージで登場し、男性を悩殺しました。

――山口百恵の『ひと夏の経験』は当時、衝撃的な歌詞として話題になりましたね。

馬飼野 『ひと夏の経験』がヒットした74年前後は、西川(現・仁支川)峰子の『あなたにあげる』や麻丘めぐみの『ときめき』など、いわゆる「ロスト・ヴァージン」をテーマにした歌がやたら多かった時期です。本書では「喪失歌謡」と呼んでいます。これらの曲の作詞を手がけたのは千家和也さんで、この人によって喪失歌謡は一つのジャンルになったわけです。

――セクシー歌謡は時代と共に音楽シーンから消えてしまいました。なぜでしょうか?

馬飼野 「セクシー」を音楽で表現する必然性が薄れたからだと思います。80年代以降、ビニ本やアダルトビデオなどの普及で、歌でなくても、映像込みで手軽にエロを楽しめるメディアが増えたことで、相対的に衰退していったのではないでしょうか。また、与えられた曲を歌うだけという歌謡曲のあり方が一般的でなくなり、時代的にも男性に媚びる女性像が受け入れられなくなった、ということはあるかもしれません。

(聞き手/程原ケン)