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“二階おろし”がカギ!? 菅首相+3Aで押し切る「10月10日」総選挙

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自由民主党(C)週刊実話Web

秋に迫った衆院解散・総選挙を前に、安倍晋三前首相、麻生太郎副総理兼財務相、甘利明自民党税調会長の「3A」が政局の主導権を握った。

続投を確かなものにしたい菅義偉首相が、政治的立ち位置を二階俊博幹事長から3Aに完全にシフトチェンジしたのだ。

一方の二階氏は、いまは形勢不利とみて、あえて融和の姿勢を示すものの、乾坤一擲、虎視眈々と巻き返しを狙っている。

新型コロナウイルスの感染収束はいまだ見通せず、東京五輪・パラリンピック(7月23日~9月5日)もリバウンドの懸念を抱えながらの開幕となるため、波乱は、まだまだありそうだ。

「この会こそ、私も最高顧問を引き受けたいと思ったわけです」

6月15日、自民党有志の『自由で開かれたインド太平洋推進議員連盟』が東京・永田町の自民党本部で開いた発足会合で、最高顧問に就いた安倍氏はそう挨拶した。

議連会長は二階氏。2人は、10月21日に任期満了となる衆院の解散と総選挙を見据え、主導権を争う関係と目されていただけに、安倍氏を最高顧問に迎え入れた二階氏の意図に永田町の関心は集まった。

二階氏は、自民党きっての中国に近い〝媚中派〟。国際的な対中国戦略の要であるインド太平洋構想を進める議連を立ち上げた真意をいぶかる声も多い。

安倍氏出身派閥の細田派中堅議員は「それだけ二階氏が押されているということだ。力を残すには安倍さんと融和した方がいいとの判断だろう」とほくそ笑む。二階派のベテラン議員も「ポスト菅は安倍氏だという、究極のヨイショだ」と否定しなかった。

旗色が悪い二階氏に見切りをつけた菅首相

実際、安倍氏を筆頭に3Aの存在感は日ごとに増している。3人は第2次安倍政権を発足させた盟友同士で、姓の頭文字から「3A」と呼ばれる。

5月21日に発足させた自民党有志による『半導体戦略推進議員連盟』では甘利氏が会長、安倍、麻生両氏は最高顧問に就いた。6月8日には、超党派の『日豪友好議員連盟』の会合で、同議連の最高顧問に安倍、麻生両氏が、甘利氏は顧問に起用された。

3Aによる一連の動きの狙いが「二階おろし」にあるのは明らかだ。昨年9月の菅政権樹立の道筋をつけ、幹事長として実権を握り続ける二階氏を代え、衆院解散とその後の政権運営の主導権を握ろうというわけだ。

3Aに近い岸田文雄前政調会長が5月12日、参院選での買収事件で有罪が確定した河井案里前参院議員側に提供された党資金1億5000万円について、支出の経緯と使途の説明を二階氏に直接求めたのも、その一環に他ならない。

追い詰められた二階氏は5月24日の会見で「(支出の最終責任者は)党総裁や幹事長である私がやっている」と苦しい弁明を繰り返すしかなかった。

自民党の選対関係者は「選挙の中枢で関わった人はみな、当時の安倍首相が党事務方の重鎮に指示して支出させたことを知っている。でも、そんな内幕を党ナンバー2の二階さんが表立って話せないと見透かし、責任をなすりつけた」と内情を明かした。

すっかり旗色が悪くなった二階氏に見切りを付けたかのように、菅首相も政治的軸足を3Aの方に移したと見ていい。3月29日に続き、6月3日には衆院第一議員会館の安倍事務所まで自ら足を運び、30分間にわたり会談した。

首相は記者団に「G7サミット(6月11~13日、英国)について意見交換した」と説明したが、重要な要素は明かさなかった。安倍氏の関係者によると、首相は「通常国会は延長しません」、「その後は東京五輪開催に全力を尽くします」と伝えたのだという。

二階氏はこれまで「野党が衆院で内閣不信任決議案を提出してきたら、首相に解散を進言する」と主張してきた。しかし、首相と安倍氏は即座の解散を否定。秋の総選挙に向けた今後の政治日程について腹合わせをしたのが真相のようだ。

実際、6月15日提出の不信任案は与党などで否決し、国会は16日に閉会した。それもさることながら、会談を境に6月以降、今後の具体的な政治日程が永田町に流れるようになった。東京五輪は予定通り7月23日に開幕。パラリンピック後の9月6日に臨時国会を召集し、大規模補正予算を成立させた上で、16日に衆院解散――という日程だ。

公示は9月28日で、投開票は10月10日。「28日は大安、10日は先勝なので、験担ぎのために首相がこだわっている」という〝講釈〟までついた。

とはいえ、この日程こそ「首相の政権戦略に基づいたもの」(政府関係者)に他ならない。五輪の余韻が残る中で衆院を解散、総選挙に勝利し、党総裁選で無投票再選を果たす――。

これまでの流れは、結果として首相の思惑通りになっていると言っていい。

10月には集団免疫獲得でコロナ収束

人事の調整も始まったようだ。軸となるのは、党幹事長に甘利氏か岸田氏を充て、二階氏は副総裁に〝昇格〟。官房長官には、首相の信頼が厚い梶山弘志経済産業相か萩生田光一文部科学相を起用する案だ。

衆院議長には細田派会長の細田博之元官房長官を推し、安倍氏は派閥に復帰。また、岸田氏には閣内で重責を担わせ、ポスト菅の地位を固めるため、麻生氏が財務相を譲り、代わりに麻生、岸田両派の合流を図る構想も取り沙汰されているという。

復権を見据え、岸田氏は6月11日、党所属国会議員145人を集めて『新たな資本主義を創る議員連盟』を発足させた。ここでも3Aはそろい踏みし、安倍、麻生両氏は最高顧問に就任、甘利氏は議連の発起人に名を連ねた。

それにしても、菅首相がコロナ感染の「第4波」を抑えられず、全国で次々と緊急事態宣言の発令を余儀なくされたのに東京五輪開催に突き進み、世論の厳しい批判を集めて内閣支持率の下落にあえいでいたのは、ほんの1カ月前のことだ。

それが3Aの確かな後ろ盾を得てから、政治の潮目は明らかに変わった。全国のコロナ感染者数が減少傾向となり、ワクチン接種も一気に進むという追い風も吹いた。

6月9日、2年ぶりに開かれた国会での党首討論で、政府のコロナ対策を質す立憲民主党の枝野幸男代表に対し、首相は「ワクチン接種は6月末までには4000万回を超える」と切り返した。記者団にも「予想よりはるかに早い」と、饒舌に語った。

確かに6月15日時点で、累計の接種回数は2500万回を超え、英国の大学のデータ集計サイトでいまや世界15位だ。優先接種対象の65歳以上の高齢者は、4割近くが少なくとも1回目の接種を終えた。企業や大学での一般接種も始まり、スピードはさらに上がった。

首相官邸関係者は「宣言解除で感染のリバウンドが起きても、重症者は確実に減る。医療のひっ迫は回避できるだろう」と表情を緩める。

最近の報告案件で、首相が喜んだことが3つあるという。1つは、高齢者を中心に旅行需要が戻っていること。2つ目は、10月には集団免疫獲得に達するということ。3つ目は、東京五輪で日本選手の金メダル獲得予想数は30個以上になるということ。

「首相は『そうか』と嬉しそうだった」(政界消息筋)

先の細田派中堅議員は、3Aに乗った首相は「賢明だった」と話し、「安倍氏が強いのは、単に最大派閥の細田派出身ということだけではない」として、その核心に触れる。

「長期政権を担い、米国の信頼が厚いからだ。半導体議連は大使館の要請だし、五輪への米選手団派遣は、安倍氏が米民主党の最高幹部から確約を得ている。親中派として睨まれる二階氏とは違う」

果たして、二階氏はこのまま3Aに押し切られるのか。5年間にわたり幹事長として君臨してきただけに、反転攻勢の機会をうかがっているのは間違いない。

二階氏の狙いは幹事長続投だ。布石も打ってきており、二階派ベテラン議員は「菅首相は二階氏をむげにはできない」と言い切る。

都議選後に自民も“小池与党”に

首相への逆風は弱まりつつあるとはいえ、この先もハードルが待ち受ける。間近に控えるのは、各党が国政選挙並みに力を入れる東京都議選(7月4日投開票)だ。4年前、小池百合子都知事率いる地域政党『都民ファーストの会』に惨敗した自民党は、第1党への返り咲きが至上命令だ。

当然、結果が出なければ首相に跳ね返るわけだが、先の議員によると、二階、小池両氏の間で、小池氏は特定の党派に肩入れしないとの「密約」ができているという。

「五輪中止は争点にならない。コロナ対応やワクチン接種には党派を超えて協力しており、自民を敵に回せない。そこで選挙後に自民も『小池与党』になることで話が付いた。自民は倍の50議席(定数127議席)に届くだろう」

さらに二階氏は、9月末の任期までに実施すべき党総裁選の先送りを主導することで首相に「恩を売る」つもりだという。次期総裁選は党員投票が伴うため、8月上旬には選挙日程を告知し、準備に入る必要があるが、二階氏は特例的に総裁選を10月以降とし「菅首相の下での衆院選に向け、挙党態勢を構築する」腹づもりなのだ。

3A側も多数派形成には余念がない。すでに岸田、石原両派が3Aと足並みをそろえた。竹下派については、安倍氏がポスト菅候補として、同派の実力者である加藤勝信官房長官と茂木敏充外相の名前を挙げて持ち上げ、3A側に引き付けている。

この先の政局は、現時点では安倍氏側が優勢だが、二階氏が老獪さを発揮できる局面はまだある。

そもそも、コロナ感染はいまだに収まっていない。変異株が想定以上に猛威を振るえば、結果としてワクチン接種が追いつかず、東京五輪の最中にコロナ感染の「第5波」に襲われ、四度目の緊急事態宣言、最悪は五輪が途中で中止に追い込まれないとも限らない。

その時、首相はどのような形で責任を取るのか。権力闘争は、まだまだ続きそうだ。

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