「15年で3300軒」全国の寂れたパチンコ店を巡る女性ライターの偏愛人生【死ぬ前にやっておくべきこと】

パチンコ周辺文化著述家・栄華(C)週刊実話Web

村瀬秀信氏による人気連載「死ぬ前にやっておくべきこと」。全国の寂びれたホールを訪ね歩くパチンコ周辺文化著述家・栄華をインタビュー(前編)。レトロホールに対する熱い思いをたっぷり語っていただいた。

「勝ち負け」を捨てた先に見えた風景

一枚のスクリーンショットがある。Googleマップの日本列島ごと映した画面だ。おかしい。よく見ると、この日本列島は、おびただしい数のピンにより形作られている。

そのピンの一本一本が、彼女の訪ね歩いたパチンコホールである。2010年から’24年夏までの15年で、およそ3300軒。

「北は北海道から南は沖縄まで、ホールを訪ね歩いては徳を積む。お遍路さんみたいなことになってしまいましたね」

物言いからも気品が漂う彼女の名は、栄華。ガイドワークスに所属するパチンコライターだ。しかし、彼女がやっていることはパチンコの攻略法ではない。レトロホールとそれに同居する、ネオン管の切れた看板、古い台、貼り紙に、マッチ。壁に描かれた意味不明の「パチ壁英語」に、交換所の“いい小窓”。朽ち果てたホール廃墟などなど。日本が生んだ“パチンコ”という遊技が産み落とした周辺文化を綴る物書きである。

「パチンコの読み物は世の中に溢れかえっていますけど、ほとんどが攻略法と勝った負けたの自慢で、あっても業界の闇を暴くようなものばかり。歴史も立ち位置も違いますが、麻雀には『麻雀放浪記』のような文学的に切り取られる幅があります。なのにパチンコには同じような人の営みであり、物語があるはずなのに、なぜ文化的に取り上げられないのだろう。そうもどかしく思ったことが、パチンコの周辺文化へと目を向けた最初のきっかけでした」

栄華は勝ち負けを書かない。ただ全国の寂びれたホールを訪ねては、そこに人とホールの営みを見つけ、記す。それは関東大震災の焼け跡を歩き見た東京の風俗を「考現学」と名付け、記した今和次郎にも通ずる。

勝ち負けという煩悩を捨てたとき、ホールという猥雑な箱は、はじめて観察されるべき対象として立ち上がる。捨てられてきた残滓たちが、この国の風俗史や生活史を浮かび上がらせる。

彼女はそれを一軒ずつ標本にしてきた。誰も残そうとしなかった、人の欲と営みの果ての記録は、一昨年、とある好事家のおかげで奇跡的に本にまとめられた。

『偏愛パチンコ紀行』。書店には流通しておらず、手売りと通販のみ。出版者は釘曲げ出版。酔狂である。

「もともとは、あるパチンコ会社のオウンドメディアに寄稿していた連載原稿なんですが、ある日急になくなってしまって。その連載を楽しみにしていた釘曲げ出版の社長さんに『本にしませんか?』と言われました。最初は断ったんです。こんなものが面白い本になるなんて思えなくて。でも社長に『あなた、気づいてないと思うけど、これは面白いんですよ』と力説された『自分が読みたい』という社長の個人的欲求から生まれた本なんです。でも先日も文学フリマで手売りをしたのですが、買われていく方は昭和の古いもの、路上観察や、建築やデザインに興味のある方ばかり。パチンコファンとは違う郷愁に刺さるようでした」

打たぬ者の胸にこそ、パチンコ文化という主題は届く。それは、彼女の記録が文化の側に立っていることの、何よりの証しだった。

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