「タピオカ漬け丼」で世界が変わった “珍そばハンター”なかやまの逆転人生

なかやまの運命を変えた「タピオカ漬け丼セット」

まだ終わらない“全店制覇”最後のピース

『フジソバマニア』。なかやまはそんなタイトルの同人誌を作った。珍そば名鑑、珍品グッズ、かきあげ大研究…それは、なかやまにしかできないなかやまの富士そば本だった。

「結局、僕は立ち食いそばの専門家ではないんです。業界全体のことは分からないし、富士そばだって珍そばのことだけを追ってきたマニアなんです。この本に僕の富士そばを全部出し切りました。

ブログだとどうしても情報がタテから流れていくものなので、紙は構成ができる強みがあった。珍そばでは商業出版は見込めない。自費出版だから小遣い稼ぎぐらいのものですが、形にできたことは僕にとって大きな一歩でした」

同人誌を各地のフリマや即売会に行って販売していると、多くの人が手に取って「おもしろい」とよろこんで買ってくれた。なかやまは、自分のやるべきことを再確認したように、再び珍そばを求めて沿線を歩きはじめた。

「もう生活の一部ですよ。コンビニ行ったついでに寄るぐらいの感覚でそばを食べてる、みたいな。昔は恋愛みたいだって言いましたけど、今は家族愛みたいな感じですかね。前みたいなドキドキ感はなくても、いないと落ち着かない」

気がつけば、珍そばを探し始めて今年で干支が一周する。なかやまは誰も踏み込んだことのない場所に立っている。

富士そばの本部すらも把握していないであろう限定メニューの記録は600食を超え、3冊に増えた同人誌も小さいながら着実に刷を重ねてきた。たまに「変わった素人マニア」としてテレビやラジオに呼ばれるのも悪くはない。

なかやまは言う。これは趣味なのだ、と。公式に取り込まれず、ファンに迎合せず、珍そばの記録を率直に書き続けること。それが12年600食の重みを本物にしている。

「最近は、自分からは富士そばライターって言わないんですよ。Xのアカウントも『富士そば好きなライター』です。近づきすぎると、どうしても気を遣うようになってしまう。正直にレビューできなくなったら、僕の存在価値はないですから」

そう言って笑うなかやまに「死ぬまでにやるべきこと」を聞くとこんな答えが返ってきた。

「フィリピンの富士そばに行きたいんですよ。外国の地で日本食として再解釈された富士そばが、どんな顔をしているのか。それを自分の目で確かめるまでは、まだ全店制覇とは言えない。あとは富士そばに長く営業していて欲しいんです。僕の理想の死に方は、富士そばを食べて帰って、家に着いた瞬間に死ぬことです。だから、せめてあと30年。わずか1日でもいいので、僕より先に死んではいけないんです」_(完)

「週刊実話」4月2・9日号より