「タピオカ漬け丼」で世界が変わった “富士そばハンター”なかやまの逆転人生

なかやま(C)週刊実話Web

村瀬秀信氏による人気連載「死ぬ前にやっておくべきこと」。富士そばハンターのなかやまをインタビュー(後編)。“珍そば”に対する熱い思いをたっぷり語っていただいた。

先を越された「富士そば公式本」に嫉妬

「タピオカ漬け丼」

2019年。タピオカブームの頂点で、魔が差したように新宿三光町店が生み出した一品は、まさに時代を刺し貫く珍品だった。黒い粒がイクラ丼然とした顔で丼にいるその写真を、なかやまがSNSに投稿した翌朝から世界が変わった。

「ものすごい拡散のされ方でした。お店には取材が殺到して、初日は7食だったのが、連日200食出たそうです。決してうまいものではないんですけどね。ただ話題になったことで、僕自身、この活動で初めて富士そばに貢献できたと思えたんですね。その辺から、広報の方やエリアマネージャーさんともお話させてもらえるようになりました」

石の上にも3年、富士そばの上に5年。それは何の見返りもないままコツコツと小石を積み上げてきたなかやまの小さな結実だった。

だが、この大波が引いたあとにコロナ禍が来てしまった。富士そばからは客足が減り、売り上げが落ち、材料費が高騰する。そのしわ寄せは、店舗限定メニューという“遊び心”に直撃した。

「コロナを境に、店舗限定の数がだいぶ減りました。材料費に人件費、そばの値段自体も上がっている。そうなると店長も冒険しにくくなって大胆な珍そばが減り、まとめてくるようになった。昔のような面白さは失われていました」

心躍るような珍そばにも出会えなくなったなかやまはあてもなく沿線を歩く。

俺は一体、何をしているんだろう。そんな所在のなさが、購入してから一年以上放置したままだった一冊の本を開かせた。

『愛しの富士そば』(鈴木弘毅/洋泉社)。自分ではない誰かが、自分より先に、富士そばについての本を世に出した。“誰よりも富士そばを知っている”という自負だけが拠り所だった男にとって、先を越されたという事実は想像以上に堪えた。

「嫉妬で狂いそうでした。ずっと読めなかったんですよ。立ち食いそば界隈では有名な方が富士そばの協力のもとに商業出版をされた。先を越されたことがどうしても受け入れられなかった。

でも、読んでみたら、これがいい本なんですよ。歴史、レシピの秘密、24時間密着ルポにボツメニュー。富士そばにはこれだけの奥行きがある。俺は井の中の蛙だった…と素直に教えられましたよ。今でも折に触れて読み返すぐらいバイブルになっています」

なかやまは腹を括った。あるいは立ち食いそば全般に広げ、普遍的な富士そばの探求をしていれば商業出版も望めたかもしれない。しかし、世間のニーズがほとんどない“珍そば”一点突破で来てしまった以上、できることをやるしかない。井の中の蛙なら、その井戸をどこまでも深く掘り進んでやる、と。

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