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国民の命よりも重要なオリンピックの意義とは~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

国民の命よりも重要なオリンピックの意義とは~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』 
森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』 (C)週刊実話Web

御用学者とみられていた新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長までが、「普通はやらない」と警告した東京オリンピックの開催に、菅義偉総理ら政権幹部が前のめりになっている。

菅総理は繰り返し否定しているが、菅政権が「オリンピック・ファースト」で動いていることはもはや明白だ。

一つの理由は緊急事態宣言の解除だ。本来なら直前まで感染状況を見極めて判断すべきなのだが、オリンピック開会式の1カ月前に、安全をアピールしておきたいという思惑があるのだ。

もう一つの理由は、新型コロナワクチンの途上国などへの分配を進める国際プロジェクト「コバックス」への強力な支援だ。菅総理は、コバックスに総額10億ドル(約1090億円)というアメリカに次ぐ世界第2位の巨額資金を拠出し、同時に国内で製造したワクチン3000万回分を供与することも発表した。

もちろん、途上国への支援は素晴らしいのだが、国民への給付金を絞り込み、ワクチンが足りない中で大規模支援に踏み切る最大の理由は、オリンピック開催に向け、国際社会の合意を取り付けるためだといわれている。

しかし、3000万回分のワクチン供与は正しいのか。大規模接種会場の整備や職域接種の開始など、政府はワクチン接種体制の整備に躍起になっている。しかし、関西福祉大学の勝田吉彰教授は「打ち手は足りており、ボトルネックはワクチン供給量だ」と断言している。

日本経済は当分立ち直れない

そうした中で緊急事態宣言を解除したら何が起きるのか。アメリカでは、すでに航空運賃が需給ひっ迫で値上がりし、口紅やコンドームの売り上げ増、コンサートや外食の復活など、国民のライフスタイルが元に戻りつつある。私は緊急事態宣言が解除されたら、日本でも同じことが起きると考えている。もしかしたらアメリカ以上かもしれない。

日本の特徴は、外出規制や営業規制をするのではなく、国民の「自粛」に頼ってきたことだ。今年に入ってずっと自粛を強いられてきた日本人は、我慢の限界にきている。ましてや、政府がオリンピックというお祭りを強行開催するのだ。慎重に行動してほしいといくら政府が言っても、誰も素直に従わないだろう。

その結果、何が起きるのか。嘉悦大学の高橋洋一教授は、ワクチンの抑制効果で感染拡大は起きないと主張しているが、私はそう思わない。オリンピックの開会式時点を予測すると、現在のペースなら一度接種を受けた人数が国民の4分の1に達するとみられている。しかし、その程度のワクチン接種では緊急事態宣言の解除後、爆発的な人出の増加に伴う感染拡大を抑え込めるほどの効果を持たないだろう。

巨大な感染第5波を引き起こしたら、日本経済は当分、立ち直れないほどの打撃を受ける。仕事を失って命を落とす国民も増えるだろう。国民の命よりも重要なオリンピックの意義とは一体何なのか。記者や野党の問いかけに、政府は一度もきちんと答えていない。

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