【國澤一誠のゾッとする実話怪談】第三夜 鏡の前で呪い続けた男――死後も消えなかった“執念”

「昨日、このビルで飛び降りがあったらしい」

誰と話しているんだ…

数日後。同僚から何気ない話を聞く。

「昨日、このビルで飛び降りがあったらしいよ」

胸の奥がざわついた。
真っ先に思い浮かんだのは、あの男性だった。

確認するようにトイレへ向かう。
扉を開ける。

──いる。

鏡の前に立ち、いつものように話しかけてくる。

「〇〇さんが本当にムカつくんですよ」

投稿者さんは、どこかで安堵した。
亡くなったのは、彼ではなかったのだと。

そのとき、トイレの扉が開く。

同僚が怪訝な顔で言った。

「……さっきから誰と話してるんだ?」

振り向く。

さっきまで、確かにそこにいたはずの男の姿がない。
個室も、洗面台も、鏡の中も――誰もいない。

水滴の音だけが、ぽたりと響いていた。

後に知った。
前日に亡くなったのは、いつもトイレで会っていた、あの男性だったという。

恨みは残るのか――心霊現象だったのか

それから数カ月後。
同じビルで再び転落事故が起きた。

亡くなった人物の名前を聞き、投稿者さんは凍りつく。
それは、彼が繰り返し愚痴をこぼしていた上司だった。

偶然かもしれない。
関連はないのかもしれない。

だが、鏡の前で呟かれていた言葉。
そして、死亡後も会話していたという不可解な体験。

あれは心霊現象だったのか。
それとも、極度の緊張状態が生んだ幻覚だったのか。

答えは、今も分からない。

ただひとつ確かなのは――
あのオフィスビルのトイレの鏡は、今もそこにあるということだ。

夜、ひとりで立ったとき。
鏡に映っているのは、本当に“自分だけ”だと言い切れるだろうか。

【著者プロフィール】

國澤一誠(くにさわいっせい)

長年の怪談語りと取材活動を通して集めた膨大な怪談ファイルを持つ怪談家。実体験や現地取材に基づいたリアルな描写に定評があり、YouTubeやトークイベントなど多方面で活躍中。