元阪神 横田慎太郎選手"奇跡"に隠された秘話

周囲は沈黙するしかなかった

しかし2017年、横田は原因不明の頭痛で倒れてしまう。球団は病状を公表せず、慎重な対応を続けた。

期待の若手だけに当初はマスコミの取材攻勢も激しかったが、命にかかわる脳腫瘍という病名が漏れ伝わってくると、周囲は沈黙するしかなかった。

その頃、私は吉川夫人が頻繁に故郷の鹿児島へ帰る姿を何度も目にしていた。

表情から事態の深刻さを感じ取れたが、吉川氏に具体的な話を聞くことは躊躇われた。

球団関係者や阪神OBへの取材から彼が生死の境を彷徨っていることは掴んでいた。

身近な縁を感じていたからこそ、深く取材することができなかった。

それだけに治療によって症状が寛解し、彼が再びグラウンドに戻ってきたときの嬉しさは例えようがなかった。

阪神も育成選手として再契約するなど、その復活を信じていた。

しかし、現実は残酷だった。現役最後の年となった'19年の春季キャンプ。身体は動くのだが、脳腫瘍の後遺症で視力が失われつつあった。

打撃練習では投手の球が二重に見え、自分の打った打球も見えなかった。

現役引退時に二軍監督を務め、横田の闘病と復帰に向けた努力を誰よりも知っていた平田勝男は筆者にこう明かしていた。

「脳の状態は回復していましたが、目に違和感があって、もうほとんど見えなかったんです」