社会

創価学会のジレンマ【前編】~“選挙マシーン”婦人部の消滅/ジャーナリスト・山田直樹

(画像)Roman Samborskyi / shutterstock

4年に1回、それも梅雨時という最も人が嫌う季節に東京都議会選挙がめぐってくる。最大かつ決して敗北の許されない戦い――。

その主人公は創価学会婦人部だ。

「下町の路地裏、都営、区営などの公営団地の踊り場、商店街のアーケード下など、場所を選ばず公明党への1票を呼びかけ、汗まみれで働きます。各家庭への個別訪問こそ、一番効果があるんだけどね…」

創価学会婦人部元活動家の共通した経験談である。

ところが、今回の都議選(6月25日告示、7月4日投票)では現状、このような「地を這う戦い」を展開するのは、まず不可能。コロナ禍による緊急事態宣言のあおりを、まともに被った格好だ。それに怯まず、〝3密〟の禁を破って選挙活動を強行したり、クラスター発生となれば、選挙結果はどうなるか。子どもでも分かる話だろう。仮に、緊急事態宣言が6月20日に解除されたとしても、

「そんな切迫した時間枠で選挙活動なんか、したことがありません。告示段階で、創価学会の選挙は〝終わっている〟のがいつものこと。期日前に〝誘導〟して投票確認するとか、仕上げの段階ですよ。そこから急に個別訪問という展開なんか、世間の目もあるしムリムリ」(知己の青年部活動家)

そこで学会組織は、こう指導する。スマホやタブレット、PCにSNSを駆使した「投票勧誘空中戦を実行せよ」と。しかし、ここに立ちはだかるのが、会員内部のデジタルデバイド(情報格差)である。匿名を条件に取材に応じてくれた複数の公明党地方議員(東京都)からは、おおよそ、

「こちらが選挙の話を切り出す前に、『コロナワクチンの予約方法を教えてくれ』という要望ばかり。にわかスマホ講師みたいなことをやっている。都議選に腰を落ち着けて取り組めない。それでも高齢者の1票は、貴重ですからやるしかないのです」

という嘆き節が返ってくる。ちなみに、党を挙げてツイッターを使いまくって「反菅世論をぶち上げろ」と指導するのが、学会のライバル共産党だ。すでにこの方針は、昨年秋から徹底されており、学会同様に高齢化している組織へ喝を入れている。つまり現状、ことSNSに限れば、学会は共産党に遅れをとっている。

そんな学会組織に激震が走ったのは、4月18日のことだった。東京・豊島区巣鴨に所在する学会施設『東京戸田記念講堂』で開催された第3回本部幹部会において、原田稔会長はこう述べたのである。

「女性の副会長」が皆無の組織

〈婦人部・女子部ともに、結成70周年という意義深き節目を迎えた本年は、学会創立100周年への『勝負の10年』の出発であり、今こそ池田先生のもとで『学会の永遠性』を確立すべき大事な時であります。

そこで、婦女一体の流れをより強くし、これまで以上に幅広い女性の連帯で、広布拡大と発展を目指していくために、このたび、池田先生にもご了承をいただき、『婦人部』と『女子部』を、新たに『女性部』として、出発を切ることになりました〉(聖教新聞4月19日付)

この紙面を見て、たまげた知己の婦人部一般活動家からは電話やSNSで「いったい、どうなっているのか。そちらは知らないか?」というような問い合わせが舞い込んだ。彼女らの心配事は、婦人部が消滅ないしシャッフルされて、人事が一新されたらどうなるのかだった。次期会長の最右翼だった正木正明元副会長は、婦人部からかなりの信頼を寄せられていた学会幹部だったが、「選挙活動での婦人部の負担を軽減すべき」を持論にし、衆議院選挙からの撤退も考えていたご仁。

安倍政権へのめり込んでいった現執行部から睨まれたのは当然で、結局、「本人事情」を理由に副会長職を放棄せざるを得なかった。つまり、会長レースから脱落したのである(2015年11月)。

確かに、原田会長は意味深長な言い回しをしていた。以下は要約だ。

〇第1段階として5月3日(※筆者注 池田大作創価学会会長就任日および結婚記念日という学会の旗日)に、婦人部の名称を女性部に変更する。役職名の婦人が女性に替わる。

〇第2段階は創価学会創立記念日の11月18日。この時点で現在の女子部を加えて女性部がスタートする。

〇スタートする組織は従前のように既婚・未婚で組織を分けない。20代組織と30~40代組織の2本立て。

これまでの学会女性組織は、いささか面妖だった。

婦人部所属となるのは、40歳以上~65歳未満の女性。既婚・未婚は問わない。対して女子部は15歳以上~39歳までの独身者(ただし非学生)。単純に言うと、女性既婚者は年齢がどうであれ婦人部所属である。そして、女性の副会長は1人もいないというのが創価学会組織の特徴だ。仮に、池田名誉会長や原田会長が本気で学会の永遠性を云々するのなら、副会長の少なくとも4分の1は女性を起用すべきで、それが学会の「持続可能性」の担保でもある。

キャリア志向の女性は一番嫌われる

それでも、これで組織的にすっきり感が出たようにも思うのだが、現実はそうとも言えないらしい。元婦人部活動家で脱会した友人に言わせると、

「私は学会の女性観が嫌で辞めたようなものです。あの組織の基本は、『男は外で働き、女は専業主婦』。逆に言うと、バリバリのキャリア志向の女性は一番嫌われる。理由は簡単で、仕事をしているから学会活動ができないじゃないか。福運は学会活動で生まれるのだから、仕事で(活動を)やらないのはおかしい、と平気で言われる。つまり、昭和の家庭婦人、ライフスタイルをいまだに引きずっている古い組織体質なんです。私のような仕事持ちを〝ワーク〟と呼んでいました。ワークのメンバーは格下なんですよ。逆に言うと、専業主婦でなければ、学会婦人部の活動なんて、とてもこなせません」

付け加えると、女子部の下(年齢)には大学生や専門学校生で構成される女子学生部もある。こうした点から、女子部の立ち位置がよく分からないという声も多かった。昭和30~40年代に膨れ上がった組織だから、結婚すれば専業主婦が当たり前の価値観によって、創価学会婦人部活動の根幹が形作られてきたといってもいい。それが平成を経て、令和に入り、いよいよ現実との齟齬、開きが拡大し、婦人部そのものにメスを入れざるを得なくなった。そのあたりが組織改変の真意にも見える。

原田会長はさりげなく「池田先生は了承済み」と述べているが、「創価学会と言えば婦人部」の看板が消えてしまうのである。最も皮肉な見方はこうだ。

「女子部が実体をなしているか、大いに疑問です。今回の組織改変は、活動力のない女子部に見切りをつけて、婦人部にくっつけたにすぎません。企業で言うなら、不採算部門の吸収ですよ。ただ単純に婦人部へ吸収した形だと、縮小再生産に見られるから女性部を作った格好にしたのでしょう。結局は、婦人部の序列の中へ女子部を組み入れただけのこと。11月になれば、それが分かります。都議選も衆院選も、その前に終わっているのが前提の話です。だから婦人部は従前通り動く。名前が女性部に替わるだけで、中身の変化はない。創立記念日をすぎてからですよ、本格的な組織改変は」

学会本部のある信濃町中枢から、そんな声が聞こえてくる。一方、私に情報はないかと尋ねてきた婦人部活動家からは、全く別の意見が提起されるのである。

「はっきり言って、女子部というお荷物を押しつけられた感じです。仕事があるからと、学会活動、とくに新聞啓蒙(聖教新聞拡販のこと)や選挙のF取り(投票依頼)をやらない。特に学会の3世には、そういう傾向があります。女子部で活動が熱心なのは、10人に1人いるか、いないかですよ。それで、結婚して婦人部に所属しても『共働きで忙しい』と理由をつけて活動しない。創価学会が一生懸命応援している公明党の票が、選挙のたびに減っているのは私たちだって分かる。だから何とかしないと、という危機意識を感じられないのです。もちろん、学会活動の不熱心さにおいては、男性もひどいですが」

聖教新聞の配達を読売新聞に委託

彼女たちの怨嗟は、どれほど中枢に届いているのか知る由もないが、たとえ票数が減っても議席数は減らさないという意気込みに衰えはなさそうだ。だが、そんな気合いに水をかけるような事態も進行中である。多くは婦人部や壮年部の人力によって維持されてきた、日刊機関紙・聖教新聞配達の外部委託がさらに加速されそうな勢いなのだ。

「5月1日(金)付より聖教新聞(中略)の配達は、読売新聞の配達員が行います」。この通達があったのは、昨年4月。そして、今月から兵庫県でも同様の外部委託が始まった。

要するに、自前の機関紙を配達する会員を確保できない状況に創価学会は陥りつつある。この新聞配達員は、「無冠の友」と言われ、池田大作氏がことあるごとに褒めそやした人材だ。

「今、常勝関西の一角、兵庫が崩れて次は大阪府内の配達が外部委託されるのではないかと危惧されるのです。いずれ新聞は紙でなく、デジタルでという指導になるでしょう。コロナ禍でそのことに、一層加速がついたと思います。対話、対談が基本の学会が、リモートワークに馴染むとは、とても思えません。兵庫には、神戸や西宮、姫路など都市部もあります。それを逆手に取り、常勝関西はデジタル化で先陣を切った、切ろうという話にならないか心配です」(大阪の地域幹部)

創価学会はホームページをすっかりリニューアルし、映像(動画)中心の仕立てになった。幹部は口を開けば、「デマンド方式のビデオ活用」と言う一方、紙の媒体である創価新報(青年部機関紙)は月2回発行が1回に減らされている。単純に配達の担い手だけの問題ではなく、情報伝達、言い替えれば信者獲得のイノベーションが迫られた結果、紙媒体からの撤退が始まったとも言えるのだ。

そうなると、最も票を稼ぎだしてきた婦人部自身がデジタルデバイドで置き去りにされるのだけは、回避したい。そこで「女子部は、女性部に加わることで婦人部のデジタル化のために動員されるのでは」と見る向きもある。

政党の中で最もデジタル化が進んでいるのは、日本維新の会、僅差で自民党が追う。一方、新宗教教団中、最も進んでいるのは、それでも創価学会なのである。その中核をなす婦人部が、看板を下ろしてでもデジタル化で胸を張れるか、いままさに岐路に立っている。

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