「歌詞は美しく、とても物悲しい」日本レコード大賞を受賞した布施明の『シクラメンのかほり』

「布施明フォーク化作戦」大成功の瞬間

また過ぎ去った時代に思いをはせるのは、同じく’75年にヒットした荒井由実『あの日にかえりたい』に似ています。遠い過去を振り返りたいという気分が、時代の中に立ち込めていたということでしょう。

ちなみに私は、そのときのレコード大賞の映像を保存しています。トップが緑、ボトムが白、まるで画家のようなファッションで、フォークギターをかき鳴らしながら熱唱する布施明の姿は、まさに「フォーク歌謡」。

そして小坂洋二を首謀者とした「布施明フォーク化作戦」に大成功の瞬間が舞い降りたのが、ちょうど50年前の大みそか開催、日本レコード大賞の会場=帝国劇場なのでした。

少しだけ余談。シクラメンという花、実は、香りがまったくしないか、弱く、かつあまりいい香りではないものが一般的だったのです。しかしこの曲のヒットも影響して、品種改良が進み、今や「香りシクラメン」「芳香シクラメン」が出回っているのですから驚きます。まさに「世は歌につれ」。

日本の歌謡界に「フォーク歌謡」という大きな花を咲かせた布施明。あれから50年後となる今年の大みそかのNHKホールに、どんな花を咲かせて、どんな香りを漂わせるのでしょうか。楽しみです。

「週刊実話」12月18・25日号より

スージー鈴木/音楽評論家

1966(昭和41)年、大阪府東大阪市出身。『9の音粋』(BAYFM)月曜パーソナリティーを務めるほか、『桑田佳祐論』(新潮新書)、『大人のブルーハーツ』(廣済堂出版)、『沢田研二の音楽を聴く1980―1985』(講談社)など著書多数。