昭和を戦慄させた無差別テロの元祖「草加次郎事件」 封書爆弾から地下鉄襲撃までの“深すぎる闇”
【伝説の怪事件の裏側1】
昭和の後半期には『毒入りコーラ事件』(1977年)や『グリコ・森永事件』(1985年)などの劇場型犯罪が発生したが、その先駆けとなったのが昭和37(1962)年~昭和38(1963)年にかけて起きた「爆弾魔・草加次郎事件」だろう。
有名芸能人をもターゲットにした“草加次郎”とは何者だったのか? 巧妙にしてショッキングな爆破・脅迫事件の全貌を振り返る。(2回中の1回)
発端は倉千代子後援会に送られた封書爆弾
昭和38年(1963)9月5日午後8時すぎ、地下鉄銀座線京橋駅で停車中の渋谷行き車両内で手製の時限爆弾が炸裂、乗客10人が負傷した。
犯行声明に書かれた「草加次郎」。謎の爆弾魔はその名を「そうか」と読むのか、それとも「くさか」なのかわからないまま、世間を騒がせるだけ騒がせて忽然と消えた。
始まりは差出人不明の一通の封筒だった。昭和37(1962)年11月4日午前11時半ごろ、東京都品川区の歌手・島倉千代子の後援会事務所に届けられた大量のファンレターの中に差出人名の書かれていない二重になった大型の封筒が紛れていた。
男性職員(23歳=当時)が不審に思いつつ封を開けてみると、中からボール紙で作った長さ13センチ、幅4センチの細長い筒が出てきた。
その筒は中央で2つに分かれるようになっており、男性職員がおもむろに筒を引っ張ってみるとシュッという音とともに筒から炎と白煙が上がった。驚いた男性職員は慌てて筒を放り投げたが、右手に全治2週間の火傷を負った。
通報を受けた品川署が調べたところ、筒には花火をほぐして取り出したとみられる黒色火薬が詰め込まれており、筒を開けると内側に仕込んだ赤リンが擦れて着火、火薬に引火する仕組みになっていた。
筒には「祝」と「呪」という2文字が書かれ、反対側には「草加次郎」の名前が記されていた。アルファベットの「K」のような文字もあり、これは「草加」を「くさか」と読むという意味ではないかとも思われたが、結局何を指したものなのかわからなかった。
投函されたのは前日の3日、封筒の消印はかすれていて、「〇谷」としか判別できなかった。手掛かりはこれだけだった。事件がこれだけで終われば、犯行は島倉千代子に恨みを抱いた悪質なファンのいたずら程度で済んだかもしれない。
ところが草加次郎を名乗る人物は、間髪入れずあちこちに爆弾をばらまき始めたのである。
11月13日、港区六本木のクラブホステス兼経営者(41歳=当時)宛に全く同じ構造の爆弾物が郵送された。
この爆弾は不発に終わったが、今度は一文字違いの「杉加次郎」のサインが書かれていた。筆跡鑑定の結果、先の草加次郎と同一人物によるものと断定された。
草加次郎が“姿なき爆弾魔”として首都圏を戦慄させたのは、不特定多数をターゲットにしはじめたからである。それは日本における無差別テロの走りといえるものだったのだ。
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