「粒の揃ったユニゾンがとにかく美しい」キャンディーズ『アン・ドゥ・トロワ』

大人っぽいサウンドでピンク・レディーと共存共栄

馬飼野康二のアレンジが洒落ているので、吉田拓郎っぽさを感じさせませんが、拓郎本人のバージョン(アルバム『大いなる人』-’77年-収録)を聴くと「あぁ拓郎節だ」と納得できるはずです。

喜多條忠による優美な歌詞もいい。「♪人は誰でも一度だけ すべてを燃やす夜がくる」というくだりに、私は当時小学5年生ながらドキドキしたものでした。

そして3人のボーカル。「キャンディーズ=ハーモニー」というイメージが強いかもしれませんが、ぜひサブスクなどで聴いてください。

この曲、ほとんどがユニゾン(同一音程)なのです。でも粒の揃ったユニゾンがとにかく美しい。今のアイドルの「機械処理ユニゾン」ではない「人力ユニゾン」が聴きどころ。

’77年の9月といえば、ピンク・レディーが『ウォンテッド(指名手配)』をリリースし、まさに最盛期に向かっている頃。

対してキャンディーズは、小学生を踊らせまくっている彼女たちとガチンコでぶつからず、この大人っぽいサウンドでひょいとかわしながら、大学生以上も射程に置いた別次元へと向かっていく。

そして’77年の9月といえば、日比谷野外音楽堂での「普通の女の子に戻りたい」発言から2か月ほど経った頃。「普通の女の子」、いや「普通の大人の女性」としての気持ちを歌ったこの曲を、ファンは熱烈に支持するのでした。

いよいよカウントダウンが始まっている。この曲のリリースから、あの後楽園球場での解散まで、あと195日。

「週刊実話」11月27日号より

スージー鈴木/音楽評論家

1966(昭和41)年、大阪府東大阪市出身。『9の音粋』(BAYFM)月曜パーソナリティーを務めるほか、『桑田佳祐論』(新潮新書)、『大人のブルーハーツ』(廣済堂出版)、『沢田研二の音楽を聴く1980―1985』(講談社)など著書多数。