幻のラーメン屋『居酒屋×ラーメン 真珠』店主インタビュー 自家製麺の試作で四苦八苦「製麺の基本が分かっていなかった」

次回の開店11月29日(土)は黒豚味噌ラーメン、12月28日は和牛テールラーメンの予定
村瀬秀信氏による人気連載「死ぬ前までにやっておくべきこと」、今回は“幻のラーメン店”店主・谷川進氏のインタビュー(中編)をお届けする。ラーメンが特別好きではないという店主は、月一開店のお店をどのように人気店にしていったのか――。

ラーメンの奥行きが深まった妻の指摘

「脱サラして本格的にラーメン屋を始めようとも、自分のラーメンで天下を獲りたいとも思わない。ただ、なんて言うんですかね。いろんな美味しいラーメンを作りたい。それが一番大きな欲求だったのだろうと思います」

転職して給料も上がり、結婚もして広いキッチンの新居へ引っ越した谷川進のラーメン道楽はいよいよ度を越してきた。

ラーメンの調理機材はほぼ揃った。パスタマシンや麺打ち台も買って、ついに自家製麺を試作する領域まで踏み込んだ。

披露の機会は月に一度のラーメンパーティー。仲間たちが集まれば、レッツラーメン。沢口靖子のリッツなノリで、1カ月間試作を重ねたラーメンを振る舞っては大好評を得ていた。

「子供の頃から料理をするのが好きだったのは、両親が共働きだったからなのかもしれないです。おやつに袋のラーメンだけを置いてあるような雑な扱いだったので、卵を溶いて、兄の分も一緒に作ってあげたりね。
母親の夕飯の手伝いもよくしましたよ。だから学校の調理実習で肉じゃがを作ったときもクラスメートの調理を見ていられなくて、分担して作るところを全部自分一人で作ってしまったこともあります。それが料理に目覚めた成功体験なのかもしれないですね」

やるからには全部やりたい。それが谷川のこだわりだった。

しかし、ことラーメンに限っては麵だけがどうしても思うようなものにならなかった。そんな中、パーティーの参加者が地方へ行ったおみやげに製麺所の麺を買ってきてくれた。

「やっぱり麺は避けて通れない道ですよ。最初は遊びのつもりで麺を打っていたんですけど、どうしても店の味にならなくて。そんなときに頂いた有名製麺所の麺でラーメンを作ってみると、劇的にクオリティーが上がった。
今思えば、かん水の分量とか圧延の回数や寝かせの時間など、製麺の基本が分かっていなかったから。これはもう、麺は麵屋にお願いして、スープ作りに全力投球するのがいいだろうと考えるようになりました」

谷川は人に頼るということを覚えた。それは結婚した妻の存在も大きかったのかもしれない。

食材や調理器具への投資もバカにならない谷川の過剰なまでのラーメン趣味に文句も言わず、時に的確なアドバイスをくれた。それは、これまで人の味に見向きもせず一人で黙々とラーメンと向き合ってきた谷川に、新しい感性をもたらした。

たまの休みにも夫婦でラーメンやさまざまな料理を食べ歩き、その感想を言い合いながら自分のラーメンに活かしていくと確実に世界が広がった。

「自分一人じゃ分からなかったことも、妻のアドバイスで道が開けることは多々ありました。例えば甘味です。ラーメンのうま味の重要な要素ですが、僕はそれが分からなかった。
妻は甘味の使い方がうまくて、例えば今回はスープ自体にもっと甘味を加えたほうがいいからキャベツの芯とタマネギを入れてみたらとか、この醤油ダレはもう少しみりんを入れて砂糖も加えたらとか、具体的な指摘をくれたんです。
その結果、ラーメンの奥行きがまるで変わりました。いろんなところに食べに行って、『これはどうやって作るんだろう』って2人で考えたりして、ラーメン以外の料理からインスピレーションを受けながら食材の組み合わせを試していくと、これがもう面白くなっちゃいましてね」