「♪人は大人になるたび 弱くなるよね」浅香唯『セシル』は時の流れの中で若者たちが歌詞を理解し語り継いだ名曲

 

語られ・愛されるアイドル・スタンダード

―「人は大人になるたび 弱くなるよね」「ふっと自信を失くして 迷ってしまう」

そうなんです。「人は大人になるたび 弱くなる」なんてことは、当時21歳の私には、まったく分からなかった。でも今になって、やっと理解できる。心から賛同できる。

この曲を聴いた、私含む当時の若者の心の中で、時が流れ、そんな理解と賛同が徐々に高まっていった。その結果『セシル』が、語られ・愛されるアイドル・スタンダードになったと思うのです。

ちょっとだけつまずくのが「♪名字で自分を 呼び捨てする」というところ。ここは小泉今日子が当時、自分のことを「コイズミ」(「コ」にアクセント)と呼んでいたのを思い出してください。そういえばカセットテープ『アクシア』のCMに「浅香のアクシア」というコピーもあったな。

最後になりますが、浅香唯のボーカルでなければ『セシル』がこれほどの名曲にならなかったでしょう。抜群の声量で響きわたる中音域。もしかしたら彼女のボーカルの魅力を理解するのにも、当時の私たちは若過ぎたのかも。

「週刊実話」11月13日号より

スージー鈴木/音楽評論家

1966(昭和41)年、大阪府東大阪市出身。『9の音粋』(BAYFM)月曜パーソナリティーを務めるほか、『桑田佳祐論』(新潮新書)、『大人のブルーハーツ』(廣済堂出版)、『沢田研二の音楽を聴く1980―1985』(講談社)など著書多数。