【禁断】SEX、暴力、前衛アート! 新世代アンダーグラウンド映画が帰ってきた!【深淵ホラー劇場:ハリウッドが封印した『G級の神々』】#2

『濡れた食材』イラスト/沙さ綺ゆがみ
【深淵ホラー劇場:ハリウッドが封印した『G級の神々』】#2
『ゲテモノ』こそ至高――。そう路上で叫ぶホラー漫画家・沙さ綺ゆがみ氏が、今回も深淵に潜む『G級の神々』を釣り上げる。
一般基準では測りしれない、異形の作品群。その魅力とは何か? そして、その狂気を生み出した製作者たちの哲学とは?
5000本以上のホラー映画を観てきたからこそ語れる、B級・Z級ホラーの隙間に潜む真髄がここにある!

世界の映画祭を震撼させた謎の制作会社!

『濡れた食材』という作品が世界の映画祭で話題になっている。退廃的で貧乏臭く、なのに人の心を捉えて離さないDIY映画。そう、あの頃のアンダーグラウンド映画が今も復活したというのだ!

1970年代も終わろうという頃、ニューヨークで生まれたノー・ウェイヴ。この前衛ムーブメントは音楽を中心に映画にも波及、リチャード・カーンを始めとしたアーティストたちがSEXと暴力、社会のタブーを即物的に映し出した異形のアンダーグラウンド映画を数多く生み出した。

『濡れた食材』公式ポスターとメイキング写真
果たして伝説は蘇ったのか。エロスと暴力、殺人をキュートとレトロのオブラートに包んだ『濡れた食材』。その映画を制作した人物たちは一体何者なのか?

アンダーグラウンドは誇りなんだ!

Blank Valley Film(ブランク・ヴァレー・フィルム)はカリファルニアを拠点とするアンダーグラウンド・ホラー映画の独立プロダクション。中心人物のマシュー・ラグスデール(Matthew Ragsdale)と主に脚本を担当するケンディ・パクシア(Kendy Paxia)に話を聞いた。

ケンディ・パクシア、マシュー・ラグスデール
「多くの低予算映画は、観客を騙して本格的な高い予算の作品だと思わせてる感じがする。でも僕らは超低予算映画(注1)であることを誇りに思ってる。アンダーグラウンドというレッテルは、低予算を恥じることじゃない。予算はゼロだけど、このカッコいい作品を見てくれよ!」マシューはこう語る。

筋金入りのアンダーグラウンド野郎だ。マシューはあらゆるホラー映画を愛しているが、大衆に埋もれる作品は作らないという信念のもとにアンダーグラウンド映画を作り続けている。 

注1:『濡れた食材』の制作費は、彼らの今までの予算で最高額の1,200ドル(日本円で18万円程度)、ケンディが監督した『Out of order(故障中)』の制作費は1,000円程度。スライムのおもちゃと血糊の値段だ。ちなみに『Out of order』はパンクスがコインランドリーで洗濯機に食べられるお話。 

血みどろホラー兄弟の絆をカリフォルニアに見た!

マシューの3歳年上の兄ポール・ラグスデールもホラー映画監督である。

ポールが作る映画は、例えば名前通りエクササイズをもじったフィットネス・ホラー『マーダーサイズ(Murdercise)』、新作『オンリー・ファングス(Only Fangs)』はセクシーな女吸血鬼たちが顧客管理アプリを開発して犠牲者を募る内容らしい。

マシューが作る冒涜的な世界観と真逆だ。果たしてこの兄弟は気が合うのだろうか? どうなのマシュー?

「ポールは幼い頃の僕に大きな影響を与えてくれた。子どもの頃、カメラの後ろに立つことに興味を持っていたのは兄だったんだ」

マシューは12歳の頃にポール、従弟と3人でインディーズ映画に触れ、映画について話したり、実際に小さな映画を作っていたことを懐かしむ。また、マシューが自分で脚本と監督を始めた初期の映画は兄のポールが撮影と照明を担当している。

しかし、技術を学ぶためにも今は自分のプロジェクトは自分で撮影しているそうだ。現在もマシューはポールの映画に協力を続けている。まさにホラーが繋ぐ兄弟の絆なのだ!