「いい本は読まれてほしい」 想いを発信し続けた『伊野尾書店』店長・伊野尾宏之が築いた“絶大なる信頼”

本屋でプロレス、野宿、焼肉イベント

近藤昭仁に伝えたい。弱くても弱いなりに戦えることはある。個人書店の機動性の高さは、面白そうなことを思い付けば即実行に移せる強みがあった。

働き始めて1年ほど経った’00年には父から「お前に任せる」と店長として店の仕入れや展開をはじめとする切り盛りを任されたことも大きかった。

インターネットが登場し、情報の比重が紙媒体からネットへと移っていくと同時に雑誌の数は減り、店先の週刊誌の棚の前に二重三重の列が出来ていた立ち読み族の姿は徐々に減っていく。

“待ちの姿勢”のままだった町の本屋が苦境に立たされていくなか、伊野尾書店は大型書店ではできない攻めの姿勢を貫いていく。

’04年には個々の書店が連携するNET21に加盟し横のつながりを強化しつつ、前回紹介した’08年DDTの路上プロレスの原点となる『本屋プロレス』や、’10年『本屋野宿』、’13年『本屋焼肉』など、発売する本に合わせた特殊イベントであり、「中井文庫」や「あまり売れてないけど面白い本フェア」など独自すぎる選書など個性を爆発させる。

そして’04年から始まったのが「伊野尾書店WEBかわら版」だ。おすすめ本の紹介やイベント告知、書店のよしなしごとなどを綴るこのブログ。かつてプロレス記者を目指したこともある宏之は、書評家としても一流だった。

これらの発信からは、作家と作品に対する敬意と「いい本は読まれてほしい」という願いが溢れてくる。そんな思いに触れた読者や作家は、いつしかこの伊野尾書店に絶大な信頼を置くようになるのだ。

(後編に続く)

取材・文/村瀬秀信

「週刊実話」11月6日号より