女児誘拐殺害「飯塚事件」に浮上した「捜査機関の横暴」と「カギを握る新証言」

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「飯塚事件の闇・後編」
ジャーナリストの岡本萬尋氏が、事件の謎に迫る「シリーズ戦後未解決事件史」。第4弾は、1992年に福岡県で女児2人が誘拐殺害され、今も再審請求が続く「飯塚事件」だ。30年以上のときを経て風化しつつある事件の闇に、岡本氏が再びメスを入れる。(全2回中の2回)

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後部座席に女児2人を乗せたワンボックス

続く第2次請求審では、2つの重大な新証言により真犯人が別にいる可能性がさらに高まった。

1つは事件発生当日の午前10時ごろ、2人の通学路に近いバイパス道路で後部座席に小学生の女児と思しきランドセル姿の2人を乗せた白いワンボックスタイプの軽自動車を見たとする男性の証言だ。

運転していたのは久間と全く特徴の異なる30~40代の短髪、瘦せ型で色白の男だったこと、問題の軽自動車は片側1車線の道路を時速40キロ以下で走り、苛立った男性が2車線部分で追い越しざま軽自動車を凝視し男と女児2人を目撃したこと、ランドセルを背負って男性の方を見つめていたおかっぱ頭の女の子が今にも泣き出しそうな表情だったこと、その日は集金に行って売掛金を回収できなかった帰りだったので日にちを正確に特定できること――など、男性の証言は極めて詳細かつ具体性に富む。

もう1つは当日の午前8時半ごろ、連れ去り現場とされる三叉路で通勤途中に女児2人を目撃したとしていた女性が当初の証言を翻したことだ。

その3分後に同じ場所を通りかかった女性の同僚は女児を見ておらず、警察はこの3分間に事件が起きたとしていたが、女性は今回、自ら弁護団に連絡を取った上で「女児2人を見たのは別の日だった」「当時の調書は記憶と異なる内容で警察官に押し切られて署名した」と明言。

2人が連れ去られた場所や時間が特定できなくなれば久間を犯人とする事件の基本構造が根底から揺らぐことになる。

ところが福岡地裁決定は男性の証言について、目撃した女児が被害者と「全体の雰囲気が似ていたと繰り返すばかりで、似ていると判断した具体的根拠を全く示すことができていない」と批判。

加えて「不審車両を追い越す1~2秒の間に車内の女児2人を目撃したに過ぎ」ず「女児の顔貌を子細に観察し記憶する余裕があったとは考え難い」と切り捨てたが、ならば先述した死刑判決の核となる冬の峠道での久間のワゴン車の目撃証言も到底「子細に観察し記憶する余裕があったとは考え難い」のではないか。