伝説の「本屋プロレス」開催地 出版不況でも存在感を示した『伊野尾書店』店長・伊野尾宏之の生き様

「伊野尾さんに登場してもらうことになろうとは思ってもみなかった」

考えてみれば、出版の世界は上から下まで火の車。町の本屋だって年々減り続けて、この10年で全体の3割が消えたということも知っている。

ただ、それだけ厳しい事情に晒されていたとしても、伊野尾書店だけは大丈夫だろうと勝手に思い込んでいたのだ。

この連載『死ぬ前にやっておくべきこと』は、全盛期は過ぎ去り、右肩下がりで、どん底の逆境になろうとも、挫けずにひと花咲かせてやろうと足掻く生き様を描こうと、始まったものである。

でもまさか、ここに伊野尾さんに登場してもらうことになろうとは思ってもみなかった。閉店という決断を前にどんな思いがあったのか。そして“これから”をどう考えているのか。伊野尾宏之さんに話を聞いた。

「いろいろな要素が重なって店を閉めるという判断になりました。本が売れないというのは分かりきっていたことで、単純に“本を並べてお客さんが来るのを待つ”という商売に限界が来たということです。
業績はいいときの3分の2程度なんですけど、サイン会などのイベントをやる日は来客があっても、平日何もない『ハレとケ』の『ケ』の日の売り上げは下がる一方で、このまま店を続けてもどこかで破綻が必ず来るのは明らかなこと。
結果的に取引先や家族に迷惑をかけることになるなと思い、決断しました。本屋が『本を売る』以外のことで利益を考えなければいけない状況では、もう続けてはいけないですよね。
それでもやっぱり本は好きだから、本に関わることは続けていきたいと思っているんですけどね」

(中編に続く)

取材・文/村瀬秀信

「週刊実話」10月23・30日号より