伝説の「本屋プロレス」開催地 出版不況でも存在感を示した『伊野尾書店』店長・伊野尾宏之の生き様

「伊野尾書店は2026年3月末をもちまして営業終了することになりました」

伊野尾書店
新刊が発売すれば一番に連絡をくれて、中学生の落書きみたいなサイン本をありがたがって棚に置いてくれもした。

ありがたかった、本当に。最初にブログで本を褒めてもらったときは涙が出るほどうれしくて、文庫化したときの解説を頼んでしまったぐらいだ。

去年出した本なんて、取材に10年以上懸けた渾身の一作だったのに売れ行きは芳しくなく。分かりやすく落ち込んでいた自分に「面白いのになんで売れないんだろうね」なんて、伊野尾さんは店の休憩所で一緒に頭を抱えてくれた。

世の中の人にもっと知ってもらおうと「note」(個人ブログのようなもの)にどこもやってくれないような濃い著者インタビューを載っけてくれた。

媒体がどうとか、それで売れたとか、効果がどうとかじゃない。僕らがどれだけ時間をかけて書いた本でも、世間のほとんどの人には気づかれることもなく流されていく。

それが当たり前の世の中で、棚に置いて「いい本だ」とお客さんに勧めてくれる人がいる。そのことが、どれだけ救いになるか。そんな思いを抱いた人は、たぶん筆者だけじゃないだろう。

報せは突然だった。

9月13日。伊野尾書店の各種SNSにこんなメッセージが掲載された。

伊野尾書店は2026年3月末をもちまして営業終了することになりました。
これまで長きにわたってご愛顧、ご支援いただきありがとうございました。
来年3月までは変わらず営業を続けますので、これまで通りのご利用をお待ちしております。
伊野尾書店

その報せは、瞬く間に広がった。

Xにはお客さんをはじめ、筆者のような物書きを生業とする人や編集者、ただれたプロレスファンに、昔、中井に住んでいた人、皆が閉店を惜しむ悲痛なコメントを残していくなか、筆者は「いいね」も「かなしいね」なんて反応もコメントもできずにいた。