深海に投げ出された飽和潜水士の実話『ラスト・ブレス』は「心臓がトケトケする」救出サバイバルスリラー

「必ず救出する」を信じる主人公に共感

一番驚いたのは、ロボットアームなどのオートマチックな作業ではなく、生身の人間が手を使って補修していること。そして、海中に取り残された1人の潜水士クリスを救うために、海上にいる船長をはじめ、仲間たちが行う不屈の作業も結局はマニュアル。

すべてが自動化されようとしているこのAI時代において、肝心要はやっぱり人の力なんだということが突きつけられてきます。自分は徹底したアナログ人間ですので、“それ見たことか”と溜飲が下がる思いでした。

『タワーリング・インフェルノ』などの救出パニック映画に比べて派手な演出はありませんが、真っ暗な海中で1人取り残されても、緊急酸素ボンベが切れても絶望せず、「必ず救出する」という言葉を信じて気を失う主人公に感情移入できると思います。

ところで、今は故人となった実母が作った表現に「心臓がトケトケする」があります。バクバクほどでもなく、心持ち冷や汗が出るような「動悸がする」状態。まさに本作は、我々夫婦にとって「トケトケ」する映画でした。

ラスト・ブレス
監督:アレックス・パーキンソン
出演:ウディ・ハレルソン、シム・リウ、フィン・コール、クリフ・カーティス
配給:キノフィルムズ
9月26日(金)より、新宿バルト9ほか全国ロードショー

「週刊実話」10月2・9日号より

やくみつる

漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。