深海に投げ出された飽和潜水士の実話『ラスト・ブレス』は「心臓がトケトケする」救出サバイバルスリラー

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【やくみつるのシネマ  小言主義 第285回】『ラスト・ブレス』
潜水支援船のタロス号が北海でガス・パイプラインの補修を行うため、飽和潜水士のダンカン(ウディ・ハレルソン)、デイヴ(シム・リウ)、クリス(フィン・コール)は水深91メートルの海底で作業にあたっていた。
しかし、その最中にタロス号のコンピュータ・システムが異常をきたす非常事態が発生。制御不能となり荒波に流されたことで、命綱が切れたクリスは深海に投げ出されてしまう。
クリスの潜水服に装備された緊急ボンベの酸素は、わずか10分しか残っていなかった。

極寒の海底で起きた事故を基にした実話映画

偶然なんですが、この映画と出会う前にかみさんと「どんな死に方が一番イヤか」を話していたんです。

やっぱり潜水艦の中じゃないかって。どこにも逃げ場のない密室で、酸素が足りなくなって息苦しくなる…飛行機が落ちるのも酷いけれど、まだマシ。

なんで我々がそんな想定をしたかというと、以前ロシアのウラジオストク市にある軍事歴史博物館で、第二次世界大戦で使われた「C-56」潜水艦の中を見学したことがあるからなんです。

係留されて海上に浮いているのですが、もしこの中で完全に塞がれて海中に潜ったら、例え事故が起きなくても気がおかしくなるとゾッとしました。

「深海に取り残されて死ぬのだけはイヤだ」という話をしていたところに、この映画を見ることになったのです。

本作は、世界中に張り巡らされたパイプラインや、通信ケーブルを守る「飽和潜水士」の身に実際に起こった潜水事故を基にしています。

そもそも「飽和潜水士」の仕事すら知らなかったんですが、思えば絶対に必要な仕事ですよね。

それが単に深海に潜るのではなく、潜る前に加圧チャンバーに入って深海の水圧に耐えられる体に調整するだとか、支援船から3人の潜水士だけが小さな潜水ベルの中に入って極寒の水深91メートルの海底に降ろされるだとか、凄まじく大規模なプロジェクトが毎度繰り広げられていると知りました。

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