山口百恵『横須賀ストーリー』は歌謡曲の表現世界を変えた!“これっきり♪”じゃなかった功績

山口百恵『横須賀ストーリー』
【スージー鈴木の週刊歌謡実話第6回】
山口百恵『横須賀ストーリー』作詞:阿木燿子、作曲:宇崎竜童、編曲:萩田光雄、1976年6月21日発売

「私小説アイドル歌謡」の誕生

歌謡界で「それ以前・以後」といえるような曲。そんなにないと思うのです。

しかし、今回ご紹介する『横須賀ストーリー』は、まさにそれ以前とそれ以後で、歌謡曲の表現世界が変わった。

具体的には、表現の幅が、劇的に広がった感じがします。「それ以前・以後」、あとは小泉今日子『なんてったってアイドル』(1985年)ぐらいかしら。

というわけで今回は、その『横須賀ストーリー』の話をします。

何が新しかったのか。それは「私小説アイドル歌謡」の誕生ということでした。

まずもって「横須賀」が山口百恵の出身地で、歌詞の内容も「急な坂道」をのぼったら「今も海が 見えるでしょうか」と、横須賀の風景にちなんでいる。

いってみれば松田聖子が「久留米ストーリー」、中森明菜が「清瀬ストーリー」を歌うようなものといえば、その新しさが分かっていただけるでしょうか。

ただ私小説とはいっても、描かれているのは、いわば「歌手にならなかった」山口百恵であり、そのあたり、適度なフィクションとの配合比率もよかったのかもしれません。

ですが私は、歌い出しの「♪これっきり これっきり」、このフレーズこそに、この曲の大ヒット(ちなみに山口百恵オールキャリアの最高売り上げ)の秘密があると思うのです。

まずは、この印象的なサビが、曲の冒頭に置かれていること。90年代以降、特に15秒で流れるCMタイアップ時にインパクトを持たせるべく、サビを頭に持ってくる「サビ頭」という手法が広がったのですが、話はそれより10年以上も前なのです。

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