47年ぶりの社会党首相・村山政権誕生の裏にあった自民党の策謀

“トンちゃん”と呼ばれた庶民派の首相

ちなみに、この総理談話における姿勢、および立場は以後の内閣でも踏襲され、歴代の首相、閣僚らは第二次大戦中の日本軍の行為に対する見解を問われると、この「村山談話」に沿って発言するのが今日でも通例になっている。

それは、中国、韓国などの近隣諸国やマスコミの批判をかわすことができるからで、その意味でも歴史に残った「談話」ということになる。

一方で、村山は“社会党らしさ”も実行した。それまで自民党が軽視してきた被爆者援護法の制定、水俣病未認定患者の全員救済に向け、積極的に対処したのである。

さて、村山は「トンちゃん」の愛称をもらったことでも分かるように、なんとも“庶民派”の首相であった。

首相就任で資産公開された地元・大分の実家が、たった数十万円の価値しかなかったことも、飾り気のない清廉な政治家であることを印象づけた。

「いかにも村山らしいのは、首相に就任してすぐ公邸暮らしをしたときに見られた。ふだんの生活にも無頓着な村山は、その初日にスーツケース1つと布団だけを持ち込んだ。
降って湧いた首相就任だっただけに、洋服ダンスもなく、スーツは部屋にハンガーでつるしていた。布団の上げ下ろしから下着の洗濯まで、村山は自分でやっていたそうです。
まるで下宿の学生で、こんな“庶民派首相”は一人もいなかったはずです」(当時の官邸詰め記者)

“トンちゃん秘話”は、まだまだ続くのである。

(本文中敬称略/この項つづく)

「週刊実話」8月14日号より

小林吉弥(こばやし・きちや)

政治評論家。早稲田大学卒。半世紀を超える永田町取材歴を通じて、抜群の確度を誇る政局・選挙分析に定評がある。最近刊に『田中角栄名言集』(幻冬舎)、『戦後総理36人の採点表』(ビジネス社)などがある。