「無理を押してでも大谷翔平と会うことを望んだ」リハビリ、親族の確執、野球への情熱…長嶋茂雄から受け取った矜持
プレー同様、リハビリでも夢と希望を失わず、一筋の光を射し続けたミスター長嶋茂雄。野球の伝道者として松井秀喜と大谷翔平の2人にバトンを託した。筆者の吉見健明氏は21年間、ミスターのリハビリ動静を追い続けた。そこから見えてきた“全記録”の後編をお届けする。
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一茂は「遺産相続も放棄した」と告白
亜希子夫人の死後、長嶋のリハビリ生活を支えたのは三奈さんだった。スポーツキャスターの仕事をセーブして個人事務所『オフィスエヌ』の代表となり、肖像権の管理や関連事業を統括しているのだ。
こうした経緯もあって一茂と三奈さんの関係は悪化した。
一茂は2022年の雑誌インタビューで『父とは、もう13年も会っていない』『生きているうちに父と会うことは、もう二度とないだろう。妹達や弟とも10年以上顔を合わせていないし、連絡もとっていない』と告白するほどの絶縁状態となり、「遺産相続も放棄した」とのことだった。
長いリハビリ取材で、長嶋を守ろうとする周囲の方たちから筆者は随分と煙たがられた。断っておくが、筆者はリハビリの邪魔にならないよう「動静だけを追う」を貫いた。
それでも当初は運転手のI氏から「旦那様(長嶋)を食い物にしないで下さい。追うのをやめなければ、私は自殺します」と詰め寄られたこともある。
そんな日々の中で忘れられないのが2013年に松井秀喜と共に受賞した国民栄誉賞での出来事だ。
5月5日に行われた東京ドームでの授与式後の始球式で、長嶋はバットを構え、松井が投じたボールに力いっぱい振り抜いてみせた。
翌月曜日。いつものように多摩川台公園で待っていると、長嶋がやって来た。
そして、筆者が咄嗟に「(国民栄誉賞)おめでとうございます!」と声掛けすると、長嶋は帽子を取って敬礼してくれたのだ。あの笑顔は私の一生の宝物になった。
松井秀喜が漏らした「約束は守ります」の意味
三奈さんは葬儀で「父の話が出ると、一瞬にして笑顔の花がぱっと咲く」と語っていた。プレーだけでなく、その生きざまでもたくさんの人たちを笑顔にしてきた長嶋の遺志は、多くの野球関係者に受け継がれていくはずだ。
特に長嶋がバトンを託した2人の野球人には期待しかない。
1人は愛弟子の松井秀喜。訃報の翌朝、長嶋邸を弔問に訪れた松井は、三奈さんの計らいで2人きりで最後の別れを交わしたとされ、そこで「約束は守ります」と口にした。これが「巨人監督就任」なのかは明言していないが、期待は高まる一方だ。
もう1人は大谷翔平だ。長嶋と大谷は2023年末に東京都内で非公開の会食を行っている。
会食をセッティングした人物によれば、このときの長嶋は体調が万全ではなかったようだが、無理を押してでも大谷と会うことを望んだという。
誰よりも野球を愛し、野球を通じて人々に夢と希望を届けてきた長嶋は、松井と大谷に未来を託し旅立った――そう思わずにはいられない。
享年89。長嶋の野球(89)は天命だった。
【一部敬称略】
「週刊実話」8月7日号より
吉見健明
1946年生まれ。スポーツニッポン新聞社大阪本社報道部(プロ野球担当&副部長)を経てフリーに。法政一高で田淵幸一と正捕手を争い、法大野球部では田淵、山本浩二らと苦楽を共にした。スポニチ時代は“南海・野村監督解任”などスクープを連発した名物記者。『参謀』(森繁和著、講談社)プロデュース。著書多数。
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