「君は同志を救った英雄として迎えられる」死刑囚の手記から垣間見える“三鷹事件”の真実

事件に関与したGHQの独断専行ぶり

さらに事件翌日の16日昼には、早くもGHQ参謀部(G-2)によって「おそらく破壊活動が行なわれていた」と指摘する内部文書が作成されていた事実が近年明らかになった。

またGHQは同日、新聞各社に犯行手口を示した「無人電車運転台の写真」なるものを送り付け、掲載を求めたとの当時の報道関係者の手記もあり、現に7月17日の読売新聞朝刊は「無人電車のトリック」との見出しで“スクープ写真”を掲載している。

竹内の自白(8月20日)に先立つこと1カ月以上も前、まだ一人の逮捕者も出ていなかった段階で、全ての事情に精通しているかのようなGHQの独断専行ぶりは異様だ。

不可解な点は日本側にも少なからずある。

例えば三鷹駅構内を暴走した電車は駅前の交番を破壊したがその時、警察官は誰もおらず犠牲者は出ていない。

弁護団長の高見澤昭治弁護士は2次請求審申立時の会見で「直前に警察内部で、事故を予告するような情報が本部の警備課から三鷹警察を通じて(駅前交番の)警察官に至るまで降りてきていたことを、4人の警察官が法廷で証言した事実がある」と指摘。

「初めから活動家が事件を起こしたということで当局は動いている」と言明した。

竹内有罪の唯一の直接的な物証は取り調べでの自白だが、それは否認→単独犯行→共同犯行→単独犯行→否認→単独犯行→否認と7度も目まぐるしく変わっている。

変転の末に竹内単独犯の構図が形作られた背景には、東西冷戦の高まりも深い影を落としている。

かつて弁護団長を務めた布施辰治弁護士を祖父に持つ「三鷹事件再審を支援する会」世話人の大石進さんは2次再審申立時の集会で、全員無罪となった他の9人の元被告と、唯一の非共産党員だった竹内との弁護方針の違いを指摘した。