ショーン・ペン×タイ・シェリダン『アスファルト・シティ』が描くアメリカ医療現場のリアル

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【やくみつるのシネマ 小言主義 第280回】『アスファルト・シティ』
アメリカ・ニューヨークのハーレム地区。大学の医学部入学を目指すクロス(タイ・シュリダン)は、勉学に励む一方で新人救急救命隊員として働き始め、ベテラン隊員ラット(ショーン・ペン)とバディを組んで救急車に乗り込み、現場で厳しい指導を受ける日々。
しかし、さまざまな犯罪、薬物中毒、移民やホームレスなどの問題に直面し、自分の無力さを痛感し苦悩する。そうした中、自宅で早産した女性の要請に応えるが、新生児への処置をめぐってクロスとラットの人生を大きく狂わせていく…。

医療制度は崩壊し、お金がなければ救われない現実

展開はベタなんです。バディもので医療もの。けれど、決してきれいごとで済まされる現場じゃない。

それどころか、最低最悪、犯罪と暴力、薬物と汚物にまみれた緊急医療現場です。

我々観客には目を背けたくなるような「リアル」を次々と突きつけられるわけです。

ベテランとニューフェイスというバディものとしてはありふれた設定であるものの、魔窟のごとき仕事場を選ぶ人がいるという「事実」に、見ている方は冷静ではいられません。

それにしても、トランプ大統領のおかげで「アメリカ ファースト」の拝金主義があからさまになっています。

医療制度は完全に崩壊し、お金がなければ命すら救われない。

それでも、なんとか生きている人々がいる。そんな社会的弱者だけでなく、緊急隊員もまたトラウマになるような体験とストレス、低賃金に加え、寝る間もない長時間労働でメンタルが崩壊寸前。

文字通り、命懸けで他者を救う側もまた、ギリギリのところで精神の平衡を保っている。

その方法が、元妻の娘と過ごすわずかなひととき、女性とのつかの間のSEX、あるいは薬物に溺れるというのも、ベタではありながら納得させられます。