神奈川県・野村香さん行方不明から34年 手掛かり見つからず、元捜査員は「まるで神隠し」

「言葉は適切ではないが、まるで神隠し」

情報を呼びかけるチラシ
神奈川県警旭署には現在も特別捜査本部が設置されている。

この間、動員された捜査員は延べ9万8000人余り。延べ9万人以上に聞き込みをかけたというが、有力な遺留品も目撃証言も何ひとつ得られていない。

身代金要求など、連れ去った人間からの接触も一切無く、ある元捜査員はかつて筆者の取材に「これだけ捜査して何も出ないとは…。言葉は適切ではないが、まるで神隠し」と声を潜めた。

この元捜査員が大きな謎とするのは、一足先に家を出た姉の目撃証言は幾つも取れるのに、香さんを見たとする供述がどこからも出てこない点だ。

唯一、初期捜査で自宅近くの民家の水抜き口から勢いよく流れる雨水を、傘を差した女の子が長靴で蹴って遊んでいた、との近所の女性の証言があるが、これが香さんだったのか、今も確証は得られていない。

絶え間ない雨がかすかな痕跡も消したのか、警察犬も行方を追えなかった。

行方不明から2年半後、ある民放局が「テレビ公開捜査」と銘打ち、香さん失踪の情報提供を視聴者に呼び掛けた。

生放送で情報を知っているという人物と電話がつながったが、匿名が条件なのに女性アナウンサーが本名を口走ってしまい、提供者が激怒し電話を切るという場面があった。

この人物が、どんな情報を持っていたのかは結局分からずじまいだった。

秋の日の薄暗い午後、降り続く雨だれのベールの向こうにかき消えるように失踪した香さん。

もし、いつも通り姉妹揃って習い事に出かけていたら、生放送でアナウンサーが口を滑らせなかったら、そして何よりあの日、雨が降っていなかったら…。その後の30年余は全く違ったものになったのだろうか。

香さん今年42歳、あの日向かった書道教室も今はない。

本宿小学校近くの住宅街、香さんが失踪当日まで両親や姉と暮らしていた住まいが立つ。

いつ愛娘が帰ってきても迷わぬようにと、その佇まいは、あの雨の日から変わっていないという。共に70代となった両親は、その日が一日も早いことを願い続けている。

情報提供は旭署特別捜査本部(045-361-0110)へ。

取材・文/岡本萬尋

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