星野阪神「18年ぶり優勝」の影に長嶋茂雄さん 闘将による暗黒期からの改革舞台裏

「星野さんはもう監督を辞めるつもりか」

阪神名物「夏の死のロード」の真っ最中、札幌遠征での横浜2連戦の初戦(8月13日)を落とした夜、宿舎に戻った星野はブチ切れた。

島野に向かって両手を上げながら「もうアカン!」と、ひと言残して出て行ってしまったのだ。

本来であれば明日の試合に向けてのミーティングをするなり、気迫の見えない選手たちへの鉄拳制裁でチームに喝を入れていたところだ。

それがすべてを諦めたように仕事を放り出して消えてしまったのだから、完全な職場放棄である。

星野は翌朝まで宿舎に戻ってこなかった。過去にそんなことは一度もなく、宿舎に残された島野は「星野さんはもう監督を辞めるつもりか」と本気で思ったという。

危機感を持った島野は選手全員を緊急招集してこう問いかけた。

「お前ら、監督が辞めてもいいのか! 全員で監督に頭を下げて『気迫を持ってプレーするのでチャンスを下さい』と約束できるか!」

島野は長時間にわたるミーティングを終えた後も朝まで寝ずに星野の帰りを待ち、ようやく帰宿した星野の部屋に向かった。

「昨夜、選手たちと話をして約束した。全員気持ちを入れ替えて死に物狂いでプレーすると誓ってくれた。もう一度チャンスを与えてやって欲しい」

一晩たっても星野の怒りは収まっておらず、もしかしたら本気で監督辞任を考えていたのかもしれない。

しかし、真剣な眼差しで懇願する島野の情熱にさすがの星野も折れた。

「分かった――それにしても、島ちゃんがいなかったら俺もとんでもないことになっていたな」

島野の行動がなければ、星野の職場放棄は球団内部から批判され、ひいては監督更迭といった声が出ることは目に見えていた。

結局、就任1年目のシーズンは4位に終わってしまったが、星野阪神にとって、この夜の出来事は大きなターニングポイントになった。