“非自民連立政権”が誕生した背景 超エリートの宮澤喜一が舐めた辛酸

「たいしてケインズを読んだことがないようですナ」

ただし、折からのバブル不況を引きずるなかでは、高橋是清のような縦横の財政運営はできなかった。

小渕内閣の蔵相時代に、宮澤は通常国会で自信満々、自身の「積極財政」について、次のような答弁をしている。

「なんで公共事業がいけないかという議論を読んでみると、それはゼネコンがいかんという話になっている。それに(積極財政論の)ケインズを批判している人を見ていると、たいしてケインズを読んだことがないようですナ」

強烈な自負と自信が窺えた答弁である。

小渕首相は組閣前、蔵相就任を思案中の宮澤に対し、こう記者団に語っていたのだった。

「宮澤先生には、経験、問題への深い理解、国際的な信頼がおありだ。もし、お受けしていただけないとなれば、内閣の存在意義さえあり得ないという思いを込めて、ひたすら(受諾を)お願いしたい」

こうした宮澤ではあったが、平成15年(2003年)10月、共になお政治への意欲の衰えぬなか、高齢を理由に中曽根康弘ともども、時の小泉純一郎首相(自民党総裁)により引導を渡されたのだった。

(本文中敬称略/次回は細川護熙)

「週刊実話」6月26日・7月3日号より

歴代総理とっておきの話】アーカイブ

小林吉弥(こばやし・きちや)

政治評論家。早稲田大学卒。半世紀を超える永田町取材歴を通じて、抜群の確度を誇る政局・選挙分析に定評がある。最近刊に『田中角栄名言集』(幻冬舎)、『戦後総理36人の採点表』(ビジネス社)などがある。