宮澤喜一は財務省でも飛び抜けた秀才であった 田中角栄が「二度と酒を飲みたくない」と吐露

田中角栄「書官としては第一級だが、政治家じゃない」

ところが、まさに「百両の馬にも難がある」のことわざにもあるように、宮澤には“難点”もあった。

宮澤の首相時代を知る官邸詰め記者が言っていた。

「参謀、黒子として仕切りをさせれば、宮澤は一流中の一流だった。だが、仲間と腕を組み、部下を叱咤激励しつつ育てるなど、権力基盤を構築することができなかった。
また、理屈が多くエリート臭さがモロに出ることで、結局、人がついて来なかった。期待されながら、2年足らずで政権の幕を引かざるを得なかった最大の要因は、このあたりにあった」

とくに、絶対権力者として長く君臨した田中角栄と、池田蔵相に秘書官として共に仕え、その後も宏池会で同じ道を歩んできた大平正芳とは、まったく肌が合わなかった。

振り返ると、この2つの政権下で宮澤は、一度も閣僚など重要ポストに就くことはなかった。

田中と大平は徹底的に宮澤を排除したのである。

田中の秘書だった早坂茂三によると、田中はこう宮澤を評していたという。

「オヤジ(田中のこと)さんは首相になる前に、一度だけ宮澤と酒席を共にしたことがあるが、そのあとで『あいつは食えんな。たしかに秘書官としては第一級だが、政治家じゃない。二度と一緒に酒を飲みたくない相手だ』と言っていた」

(本文中敬称略/この項つづく)

「週刊実話」6月12日号より

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小林吉弥(こばやし・きちや)

政治評論家。早稲田大学卒。半世紀を超える永田町取材歴を通じて、抜群の確度を誇る政局・選挙分析に定評がある。最近刊に『田中角栄名言集』(幻冬舎)、『戦後総理36人の採点表』(ビジネス社)などがある。