「クロサワ見てなきゃ人間じゃない」のむみちが“名画座界のマザーテレサ”と言われるようになったキッカケ



「人生なんてあっという間ですね」

年を重ねてからハマる趣味ほど深度は深い。そして、古い日本映画の奥深さに見れば見るほどドハマリしていくのむみちは、そこから年間300本のペースで日本映画を見始めた。

当然、生活は映画中心となり、休みの日は名画座で3本。仕事の日であってもモーニングで1本、レイトショーで1本。名画座に行かなくとも家で1本は必ず見るほど、平穏な生活とのむみちの手帖はモノクロの世界に埋め尽くされていた。

’11年の年末。『名画座かんぺ』を思い立ち、翌年には創刊。以来、多くの映画関係者や、名画座ファン、俳優・宝田明氏らとの出会いがあった。

それは映画以上に自身の人生を豊かにし、彩りを与えてくれたものかもしれない。

「やっぱりハマった当初は一番熱があるので、名画座が中心の生活を送っていましたけど、今では程よい距離感で過ごせています。

ただ、人生なんてあっという間ですね。5年前にパートナーだった彼が亡くなり、2年前にはずっと心配を掛け続けた母親が亡くなりました。

そのときに映画が慰めてくれたとか、そういう話ならいいんですけどね。映画を見る気分にはなれなかったですね。特に母には心配を掛け続けて本当に申し訳なかったなって」

創刊から14年、一度も休みなく発行し続けた『名画座かんぺ』。唯一発行が大幅に遅れたのが、彼が亡くなった月の’20年6月号。その紙面には「一身上の都合で遅れてしまいました」というお詫びが記された以外は、いつもと同じ内容だった。

(後編に続く)

取材・文/村瀬秀信

「週刊実話」6月5日号より

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