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「冷凍野菜&カット野菜」売れ行き急増のナゾ!~企業経済深層レポート

企業経済深層レポート (C)週刊実話Web

日本の農業は就労人口の高齢化や後継者不足などにより、衰退の一途をたどってきた。そのため、農業市場(農林水産省統計)の総産出額はピーク時の11兆7171億円(1984年)から8兆8938億円(2019年)まで、約2兆8000億円も減少した。

だが、そんな逆風ぎみの農業市場にもかかわらず、近年は企業参入が増加しているという。

「民間の大手市場調査会社によると、企業の農業ビジネス市場額は13年の約445億3000万円から18年の697億5000万円まで約1.5倍に跳ね上がり、農業分野への参入が活発化していることがうかがえます」(経済アナリスト)

参入企業の件数も09年は約400社だったが、18年は約3300社と飛躍的に伸びている。

「多くの企業が農業に参入する最大の理由は、海外で質も味も評価が高い日本の農産物の輸出が、今後も伸びると見越しての先行投資です」(農業大学准教授)

また、生活様式の変化も農業市場に大きな影響を与えているという。夫婦共働き家庭の増加と昨年来のコロナ禍で、人々の消費動向が変わり、手間暇のかからない冷凍野菜やカット野菜の売れ行きが急増。それに対応可能な企業の参入が加速している。

「情報通信技術(ICT)やロボット、人工知能(AI)やドローンなどを活用し、超省力化や高品質生産などを可能にする新たな農業、いわゆる『スマート農業』の導入を念頭に置いた大企業の新規参入も目立ちます」(同)

では、具体的にどのような企業が参入しているのか。

昨年、大きな話題を呼んだのは、三井不動産(東京都中央区)が有限会社ワールドファーム(茨城県つくば市)と提携し、『三井不動産ワールドファーム』(東京都中央区)を設立、8月1日から東京都心近郊地域での農業事業に本格的に参入したことだ。

1次×2次×3次=6次産業

「天下の三井不動産はともかく、提携相手のワールドファームは2000年に設立され、わずか20年足らずで売上高17億円、利益率40%という驚異的な数字を叩き出した優良農業法人。19年には『6次産業化アワード』で農林水産大臣賞を受賞するなど、農業ベンチャーのトップランナーです」(前出・経済アナリスト)

その主な農産物はキャベツ、ゴボウ、ホウレンソウ、小松菜など、なんの変哲もない普通の野菜だが、注目は同社の生産加工手法だ。茨城県を中心に全国の提携農家や直営農場で野菜を大量生産し、それを収穫して自前工場で冷凍野菜、カット野菜に仕上げる。つまり、生産と加工を自社で行うことで粗利を得ているのだ。

「この成功は生産者(1次産業)が食品加工(2次産業)や流通・販売(3次産業)にも取り組み、それによって農林水産業を活性化させ、経済を豊かにする第6次産業(1次産業の1×2次産業の2×3次産業の3=6次産業)を確立したことを示しています」(同)

かつての農業は、きつい、汚い、危険、稼げないの4K産業といわれてきたが、ワールドファームが標榜するのは、簡単、感動・感謝、稼げる、家族のための「新4K農業」。同社には、この変革に賛同した若者が押しかけているという。

三井不動産ワールドファームは当面、首都圏近郊に農場や加工工場を確保。2025年までに約100ヘクタール程度に事業規模を拡大し、将来的には約3000ヘクタールまで展開する予定だという。そして、その延長上で「新街形成」を模索する方向だ。

先端技術を取り入れた「新しい農業」

不動産といえば三菱地所(東京都千代田区)も昨年8月、施設型農業大手のサラ(岡山県笠岡市)と資本提携し、大規模農業への本格参入を発表した。

太陽光を使った農業施設で、トマトやレタス、パプリカを作る計画だが、栽培面積は約11ヘクタールと施設型農業では国内最大級だ。バイオマス(生物資源)発電プラントを設置し、将来の海外進出も視野に生産施設を広げ、10年後に約300億円の売上高を目指すという。

また、NTTグループも農業市場に参入している。

「NTTアグリテクノロジー(東京都新宿区)という会社を19年に設立。同社は得意の通信技術を駆使し、スマートフォンやタブレット端末で、農場ハウス内の温度や水の調節、モニタリングができるシステムを提供しており、全国の自治体や農業関係者から、防災も含め次々に依頼を取り付けている」(農協関係者)

外食事業を中心とするワタミ(東京都大田区)は02年から農業に取り組み、全国で『ワタミファーム』を展開。合計630ヘクタールの農場を所有し、有機野菜や乳牛などを育てて自社の店で使用している。

そして、今年3月には東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県陸前高田市に、23ヘクタール規模の『ワタミオーガニックランド』を一部オープンさせた。有機・循環型社会、命をテーマに、20年の歳月をかけて大規模農場や隈研吾氏が設計する音楽堂などを整備していく予定だという。

こうして見てくると、先端技術を取り入れた「新しい農業」は、企業にとって収益の大きな柱となる可能性を秘めている。

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